女性差別の縮図

これは彼女たちの自己責任なのでしょうか。僕は絶対に違うと思います。現在の収入が不安定なのは、たまたま就職氷河期に社会に出たからです。そして景気がよくなった後も、多くの企業は非正規雇用の女性たちを正社員に登用しようとはせず、男女の平均賃金格差を大きく広げてしまいました。この流れは、まさに女性差別の縮図ではないかと思います。

ロスジェネ独身女性の貧困化問題は本人の力だけでどうにかできるものではなく、社会全体で考えていく必要があります。ではどう考え、何を発信していくべきなのでしょうか。

僕としては、今こそ本来の意味のフェミニズムが必要なのかなと思います。女性学者の井上輝子さんは、女性学を「女性による女性を対象とした女性のための学問」と定義しました。学問の世界では当時、いい議論が出てくると男性が成果をかっさらっていくことが多く、それを懸念して「女性による」を入れて定義したのだと聞いています。

そうした出発点に戻って、女性が女性のことを考え発信するムーブメントをつくり上げるのです。最近は、フェミニズムを打ち出して活動する若い女性も増えています。

ロスジェネ世代も声を上げるべき

ジェンダーやフェミニズムと言うとハードルが高いように思えるかもしれませんが、こうした活動には当のロスジェネ世代の女性も参加することが大事。今は井上先生の時代とは違い、SNSなど発信できる場や集まれる場がたくさんあります。こうした場を活用して、解決策を出し合っていくことが必要ではないでしょうか。

フェミニズムに関しては、マスコミは若い女性の活動家ばかりに焦点を当てがちですが、それはそうしたほうが新しいムーブメントに見えるからではないかと思います。でも、本来は男女賃金格差の当人である40~50代のロスジェネ世代も積極的に声を上げていくべきですし、マスコミもこの世代の意見をもっと取り上げるべきです。

古くさいと思うかもしれませんが、昔は主婦による生活クラブのような団体があり、自分たちの意見を社会に反映させるためにここから議員を出そうという運動もありました。いわば、自分たちの暮らしと政治をつなげるための運動だったのです。

女性に関する問題を改善していくためには、そうした活動を現代版にアレンジするのもひとつの手だと思います。答えは意外にも、古くさいと思われがちなものの中にあるのかもしれません。幅広い世代の運動が広がり、男女格差の解消に、ひいてはロスジェネ独身女性の貧困問題の解消につながっていくことを願っています。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。