「つらい」「しんどい」悲痛な声

もう一つ、気になるコロナ禍の日本の子育て世帯の調査を紹介しよう。

全国認定こども園協会が2020年5月に行った、全国の6108人の未就学児の子どもを持つ保護者に行った緊急アンケートによると、「緊急事態宣言の発令や外出自粛などで子育てや生活に困ったことはありましたか」との質問に、74%の保護者が「困難があった」と答えていた。

困りごとの内容で一番多かったのは、「子どもとの過ごし方に悩む」が70.1%、次いで「親の心身の疲弊」が53.0%、「減収や失職となり、生活や育児も費用が心配」が20.0%となった。

保護者のコメントからは、さらに悲痛な声がうかがえる。「子どもの体力があり余っていて、1日中、家で発狂。母の姿が見えないと呼び出される」「ワンオペでの密室育児はつらい。大人と話せる機会がほしい。子ども同士で遊ばせる機会がほしい」「在宅勤務だが、未就学児の場合、一人でまとまった時間を遊んだり、勉強したりできないため、1日中ほぼ母親が相手している。仕事をするのは子どもが寝ている時間帯になり、睡眠時間が取れず体力的につらい。会社からは事情を考慮されず、しんどい」

子どもは、じっとしてはいられない。昨年、幼児教育・保育施設の休園や利用制限が突然始まり、公園も利用できなくなり、「密室育児」に陥った家庭が多かったのではないだろうか。そのような制限は、今はだいぶ緩和されてはきているが、コロナ禍での子育て世帯へのしわ寄せが大きい状況は続いているし、これらの声に真摯に耳を傾けなければならないと思う。

娘のために、仕事を終わりにできる首相

コロナを経験し、今後のさらなる人口減少が見込まれる中、日本が、子育てがしやすい国になれるかどうかが、いま一度問われているのではないだろうか。それには、家庭内の理解だけではなく、職場、そして社会の支援も必要だ。

ちなみに、前述のニュージーランドのアーダーン首相だが、11月中旬、自宅からコロナ対策についてライブ配信をしていた時、3歳の娘のニーブちゃんにライブ配信をさえぎられるというハプニングがあった。

ニュージーランドのコロナ対策の進捗状況を報告し、ワクチン接種率も上がっているとカメラに向かって説明をしていたアーダーン首相だが、その時、娘のニーブちゃんが、「マミー?」と、ライブ配信をさえぎった。

すると、アーダーン首相は、「ごめんね、そうだね、確かに時間がかかっているね」と娘に答え、「これで終わりにして、ニーブを寝かし付けます。とっくに彼女の寝る時間が過ぎていました。参加してくれてありがとうございます」と配信を締めくくった。

そんなほほえましい姿に、子育て中の人も元気づけられたのではないだろうか。子育てをしながらも首相として働き続けられる、そんな国を参考にしなければ、日本に「ベビーブーム」なんて、やってこないのではないだろうか。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。