アメリカ、北欧やニュージーランドで、ベビーブームの兆しが見えているという。少子化の傾向にまったく歯止めがかからない日本と、何が違うのか。ジャーナリストの大門小百合さんがリポートする――。
妊娠検査の写真
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出生児数が高い伸び

「ベビーブームが来るか否か」

アメリカでは最近、そんな議論が起きている。2021年11月にバンク・オブ・アメリカと調査会社のニールセンが発表したレポートで、妊娠検査薬の売上高が上昇しているということから、「ミレニアル世代のベビーブーム」が近くやってくるかもしれないと分析したからだ。

このレポートによると、2020年6月以降、妊娠の先行指標ともみられる妊娠検査薬の売上は前年比で平均13%増となった。2016年から2019年の平均では、毎年わずか2%しか伸びていなかったのに比べたら大幅な伸びである。

しかも、2021年6月の出生児数は3.3%増加し、2013年以来の高い伸び率となったというのだ。

また、10月にバンク・オブ・アメリカが約1000人のアメリカ人にアンケート調査をしたところ、回答者の11.3%が「今後12カ月間に、自分またはパートナーが出産を予定している、または出産しようとしている」と答えている。これは、2020年12月にこの調査を開始して以来、最高の数字だそうだ。

新型コロナの影響で、多くの国でロックダウンが行われ、人々が先行き不安を感じる中、巣籠もりで出生数が増えるのかと思いきや、多くの国で出生数は落ち込んだ。

そんな状況があとどれだけ続くのだろう。将来への不安があっては子どもを育てようという気分にもなれない。そんなことを考えていたので、このニュースを見たときは明るい気持ちになった。

北欧や他の国でも

北欧の国々やオランダでも今年、出生数が伸びはじめた。アイスランドでは、2021年は過去最高の約5000人の子供が生まれる予定で、今年の第3四半期までの記録でいくと、2010年以来の最大の出生数になるという。アイスランド大学の社会学者によると、コロナの影響だけでなく、アイスランドで育休をとることができる期間が現行の9カ月から12カ月に法改正されこともプラスに働いているのではないかという。

子育て中でもあるジャシンダ・アーダーン首相率いるニュージーランドでも、ベビーブームが注目され始めた。

11月16日、ニュージーランドヘラルドは、“Lockdown baby boom! 2021 boasts the highest birth rate since 2015(ロックダウンベビーブーム! 2021年は2015年以来の出生率を記録)”との見出しの記事を載せた。ニュージーランド政府の統計によると、2021年9月の出生数は5万9382人で、前年同月の5万7753人から大きく伸びた。この数字は2015年以降で一番高いという。

「結婚」が減り続ける日本

歴史的に見ると、政治不安や社会不安、景気後退などは、出生率に大きく影響する。アメリカのブルッキングス研究所によれば、1929年の世界大恐慌の時、アメリカの出生率は9%落ち、赤ちゃんの数は例年と比べ40万人少なかったという。スペイン風邪の時の出生率も下がった。だとすれば、コロナが収束に向かうことが、出生数を上向きにすることができる1つの要因になるのだろう。

では、日本の状況はどうだろうか。2020年の出生数は、統計を取り始めて以来、史上最低の84万835人だった。また、2020年の婚姻組数も52万5507組で、前年から12.3%減と大きく減少し、こちらも戦後最も少ない組数となったようである。

結婚式を予定していた多くの人がコロナの影響で結婚をせず、その影響が今後出生数に反映されてくるのではないかとの予測もある。

リクルートのブライダル総研によると、毎年、婚姻を延期及び取りやめることにしたカップルは全体の約10%。しかし、2020年にその決断をしたカップルは、それより15ポイントも多い24.7%だった。

同総研の落合歩所長は、この減った分は短期的には戻ってくると考えているが、ここ数年の大きな流れである婚姻数の減少傾向は変わらないのではないかと分析する。その理由の一つが、結婚に対する考え方の多様化だ。

婚姻数が子どもの数とリンク

「30年ぐらい前の日本は、男女ともに95%の人が結婚していて、結婚するということがある意味当たり前だった。今は50歳の男性の4人に1人が一度も結婚していない」と落合所長は話す。「今は、どんなふうに生きていくのかとか、どんなふうに人生を過ごすかという価値観が多様化している。結婚すること以外に、自分の人生の中で大切なことがある人もいれば、逆に家庭を持つことを優先する人もいる。色々な考え方が出てきたことが、全体の婚姻数に影響していると思います」

確かに2015年の統計では、50歳まで一度も結婚したことのない人の割合をあらわす、いわゆる「生涯未婚率」は、男性では23.37%、女性は14.06%となっている。そういえば私が20代の頃は、「25歳を過ぎるとクリスマスケーキのように売れ残るよ」と言われていたが、今はそんなこと言う人はいない。

多様な価値観は尊重されるべきだという落合所長だが、こう続ける。

「日本では、結婚せず『婚外子』で子どもを産む人は2%ぐらいと言われています。婚姻することと子どもを持つことは、すごくリンクしている。大きな対策が取られたり、急激な社会的変化が起こったりしない限り、結婚の数の減少は、子どもの数の減少につながると予測されます」

ベッドに生まれたばかりの赤ちゃん
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ベビーブームはなくリバウンドだけ

少子化についてもう一人、警鐘を鳴らすのは、第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストだ。星野氏は、2020年の妊娠届け出数に一定の仮定を置いたうえで算出した、2021年の日本の出生数の見込み値を、2020年よりもさらに低い79万7360人と試算している。

「2022年の出生数は、2021年よりは増えると思われますが、リバウンドの域を出ません。基本的に(出生数は)減少トレンドにはあり、コロナ以前からその減少スピードは加速しています」と言う。さらに、「出生数の減少が一時的であれば、将来人口を考えるうえでは深刻な問題にはなりませんが、仮に2021年の落ち込みからリバウンドがなかった場合、2065年時点の人口は8443万人になると推測されます」という。また、日本の人口が1億人を割るタイミングも2050年となり、国立社会保障・人口問題研究所の予測の2053年から3年早まる結果になるという。

子育てが「楽しくない」日本

少子高齢化は、日本だけでなく、多くの先進国が抱える問題だ。ただ、国際的に比較しても、日本の現状には何らかの手を打たないといけないと思うところがある。

2020年に内閣府が日本、フランス、ドイツ、スウェーデンの各国の1000人以上の20~40歳代の男女を対象に行った「少子化社会に関する国際意識調査」に興味深いデータがあった。

この調査で「子育てに楽しさを感じるときが多いか」と聞いたところ、日本では、「楽しさを感じるときの方がかなり多い」(27.9%)と「楽しさを感じるときの方がやや多い」(50.9%)を合計した『楽しさを感じるときの方が多い』は78.9%となった。他国の結果を見ると、スウェーデンが91.0%で最も高く、フランス(85.9%)、ドイツ(84.5%)、日本の順である。日本の数字は、2015年度調査の86.2%より7.3ポイント減少しているという。

また、小学校入学前の子どもの育児における夫・妻の役割についての考えを聞いたところ、日本では、「主に妻が行うが、夫も手伝う」(49.9%)が約半数を占めており、「妻も夫も同じように行う」(40.5%)が続く。ところが、他の3か国では「妻も夫も同じように行う」と答えたのがフランスでは60.9%、ドイツは62.7%、そして、なんとスウェーデンは94.5%だ。日本の女性たちからしたら、なんともうらやましい数字である。この調査から見ても、他の3カ国は、子育てに対するハードルが低いとみられるし、北欧が子育てしやすい国と言われるのもうなずける。

「つらい」「しんどい」悲痛な声

もう一つ、気になるコロナ禍の日本の子育て世帯の調査を紹介しよう。

全国認定こども園協会が2020年5月に行った、全国の6108人の未就学児の子どもを持つ保護者に行った緊急アンケートによると、「緊急事態宣言の発令や外出自粛などで子育てや生活に困ったことはありましたか」との質問に、74%の保護者が「困難があった」と答えていた。

困りごとの内容で一番多かったのは、「子どもとの過ごし方に悩む」が70.1%、次いで「親の心身の疲弊」が53.0%、「減収や失職となり、生活や育児も費用が心配」が20.0%となった。

保護者のコメントからは、さらに悲痛な声がうかがえる。「子どもの体力があり余っていて、1日中、家で発狂。母の姿が見えないと呼び出される」「ワンオペでの密室育児はつらい。大人と話せる機会がほしい。子ども同士で遊ばせる機会がほしい」「在宅勤務だが、未就学児の場合、一人でまとまった時間を遊んだり、勉強したりできないため、1日中ほぼ母親が相手している。仕事をするのは子どもが寝ている時間帯になり、睡眠時間が取れず体力的につらい。会社からは事情を考慮されず、しんどい」

子どもは、じっとしてはいられない。昨年、幼児教育・保育施設の休園や利用制限が突然始まり、公園も利用できなくなり、「密室育児」に陥った家庭が多かったのではないだろうか。そのような制限は、今はだいぶ緩和されてはきているが、コロナ禍での子育て世帯へのしわ寄せが大きい状況は続いているし、これらの声に真摯に耳を傾けなければならないと思う。

娘のために、仕事を終わりにできる首相

コロナを経験し、今後のさらなる人口減少が見込まれる中、日本が、子育てがしやすい国になれるかどうかが、いま一度問われているのではないだろうか。それには、家庭内の理解だけではなく、職場、そして社会の支援も必要だ。

ちなみに、前述のニュージーランドのアーダーン首相だが、11月中旬、自宅からコロナ対策についてライブ配信をしていた時、3歳の娘のニーブちゃんにライブ配信をさえぎられるというハプニングがあった。

ニュージーランドのコロナ対策の進捗状況を報告し、ワクチン接種率も上がっているとカメラに向かって説明をしていたアーダーン首相だが、その時、娘のニーブちゃんが、「マミー?」と、ライブ配信をさえぎった。

すると、アーダーン首相は、「ごめんね、そうだね、確かに時間がかかっているね」と娘に答え、「これで終わりにして、ニーブを寝かし付けます。とっくに彼女の寝る時間が過ぎていました。参加してくれてありがとうございます」と配信を締めくくった。

そんなほほえましい姿に、子育て中の人も元気づけられたのではないだろうか。子育てをしながらも首相として働き続けられる、そんな国を参考にしなければ、日本に「ベビーブーム」なんて、やってこないのではないだろうか。