海外では女子の進学率の方が高いのに…

いやはや、女子学生の歴史は苦難の歴史です。今日あなたたちがふつうに大学進学を考えることができるようになったのは、こういう先輩たちが道を切り拓いてきてくれたおかげだって、ときどきは思い出してね。

上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)
上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)

外国は日本とは大きく違います。OECD加盟国では18歳人口の大学進学率は、男子より女子が高いです。なぜって、女子の方が成績がいいもんね~(笑)。その中では日本が最低。他の国には、学生だけでなく、教授や学長にも女性がたくさんいます。欧米の名門大学、ハーバード大学にもケンブリッジ大学にも女性学長が誕生(2007年、2003年)しました。東大には創立以来ひとりもいません。東大に「初の女性教授」が誕生したのは1970年。わたしは東大文学部2人目の女性教授でした。日本は諸外国の趨勢すうせいに取り残されているだけでなく、東大はとくに遅れているのです。

女性が高等教育を受けにくいのは、前問で答えたように、まず、教育をつけても元がとれない(教育投資のリターンがない)と親も周囲も考えているからです。どうせ家庭に入るなら、せっかくの教育がムダになる、それなら席を空けて、男子に譲ってやったらよい、と。

女子学生が次第に増えてきた1962年、早稲田大学の暉峻てるおか康隆教授は『婦人公論』に「女子学生世にはばかる」という論文を書きました。同じ頃、慶応大学の池田彌三郎やさぶろう教授が書いた「大学女禍論」とあわせて、「女子学生亡国論」として、世間を騒がせました。その頃の女子の大学進学率は2.5%。現在(2018年度)、早稲田大学の女子学生比率が37.1%だと知ったら、暉峻先生、草葉くさばかげでなんていうでしょうね。ちなみに早稲田大学における教員の女性比率は16.5%です

「女はバカであってほしい」

もうひとつ、女子の高等教育をきらう理由があります。「高等教育を受けると女は生意気になってろくなことにならん」と思われているからです。これが「東大行くとお嫁にいけない」神話のもとです。男が主、女が従の男尊女卑の社会では、女は男より何につけても劣っているほうがよい、なぜって? その方が男が女を扱いやすい、からです。

夫が妻に「おまえみたいなバカなヤツが……」と罵る。そんなら「なんでバカなヤツを妻に選んだの?」って言えば、「(オレより)バカなヤツ」だからこそ、選んだのでしょう。なぜって、ずぅーっと一生、相手をバカにしていばれるからね。男って単純なヤツ。こういう単純なヤツは上手にあやつって「バカのふり」をしなさい、って親切に「忠告」してくれるオバサンやオネエサンもいます。だから東大女子は、男子より賢くても「バカのふり」をします。

でもね、「単純なヤツ」をころがして、「バカのふり」をしながらつくる関係って、おもしろいですか? 一生のあいだ、そんな関係を続けたいですか?

もしあなたが相手の才能や努力をリスペクトできるような男性とつきあいたいなら、相手の男性からもあなたの才能と努力をリスペクトしてもらいましょう。お互いにリスペクトしあえる相手との関係ができるほうがずっといいですよ。

上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者

1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。