「もしも…」のときにも繰下げ受給は役に立つ

繰下げ受給はなかなか融通がきく制度で、途中でやめることができます。その際には2種類の方法があります。ひとつは、年金を一活で受け取る方法です。その場合は、65歳時点の受給額で計算され、未支給分の年金が支払われます。要介護になってまとまったお金が必要なときなどは助かります。

もうひとつは、途中で年金の支給を開始する方法です。生活費が心配なときは繰下げをやめれば、そこから年金の支給は始まります。こちらは、その時点まで繰下げて増額になった金額を受け取れます。

現在の状況を考えながら、いつ受け取りを開始するかを決めればいいのです。また、繰下げ受給をしている途中で死亡してしまっても、未支給分として遺族が受け取れます。生命保険と同じようにみなし相続財産になるので、相続税の税制優遇があります。

繰上げ受給と繰下げ受給のデメリットは?

年金をいつから受給するかは、それぞれの事情によって異なります。人生100年時代に向いている方法は繰下げ受給です。

逆に、早く年金を受け取ることができる繰上げ受給は、デメリットが大きいです。

繰上げ受給は一度選択すると、途中で変更がききません。また、障害年金を受け取れなくなります。遺族年金を受け取っている人は併用ができません。どうしても生活に困っているのでない限り、できるだけ避けたいものです。

もっとも、繰下げ受給にもデメリットがないわけではありません。いちばんのデメリットは、早死にすると損をすること。とはいえ、死んでしまえばお金は必要ないので、デメリットとは言えないかもしれません。

ただ、年下の配偶者がいた場合は、加給年金を受け取れません。加給年金とは、厚生年金の遺族手当のようなものです。加給年金は金額が大きいため、損になることもあります。

また、受給額が増えたぶん、税金や社会保険料が多くなってしまいます。

70歳まで繰下げると受給額は42%アップしますが、実際の手取り金額は35~32%くらいになるかもしれません(税金や社会保険料は、それぞれ家族関係や家計の状態で異なります)。すると、損益分岐点も1~2年、後ろにズレます。

長尾義弘『運用はいっさい無し! 60歳貯畜ゼロでも間に合う老後資金のつくり方』(徳間書店)
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「税金や社会保険料まで上がるなら損だ」という人もいますが、それは間違い。もともとの目的は、年金の受給額を増やすことです。増えた金額以上に、税金や社会保険料が上がることはありません。ある意味、これは仕方のない話です。

「税金や社会保険料が増えるから、給料を上げないでください」なんて言う会社員はいませんよね。引かれる損より、増えた得に目を向けてください。

繰下げ受給は、基礎年金か厚生年金のどちらか一方を選ぶことも、両方を繰下げることもできます。さらに、繰上げ受給とは違い、「70歳まで繰下げるつもりだったけれど、お金が必要になったので68歳からもらおう」といった具合に、変更も可能です。このように自由度の高いしくみになっています。

長尾 義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表、ファイナンシャルプランナー、AFP

徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)、『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』(青春出版社)、監修書には年度版シリーズ『NEW よい保険・悪い保険』(徳間書店)など多数。