アベノミクスを踏襲しつつも修正

岸田首相は、アベノミクスを「踏襲しつつも修正する」と明言しています。アベノミクスは、大企業を軸とした民間活力にテコ入れする「新自由主義路線」で経済低迷から抜け出しつつ、大胆な金融政策で通貨を増やしてデフレ脱却をめざすことを基本戦略としていました。その成果は上々で、失業率や求人倍率など各種指標は改善し、不動産価格も株価も大いに上がりましたが、今思えばかなり「目線が上向き」になっていました。

どういうことかというと、アベノミクスの狙いは、新自由主義という“弱肉強食”を選択することで、まず強者(大企業や富裕層)に潤ってもらい、そこからの「トリクルダウン」(利益などの「したたり落ち」)で全体を潤していくという戦略でしたが、実際にトリクルダウンは起きなかったのです。

つまり大企業の利益は、大企業の下にがっちりとため置かれ、中間層以下にはいつまで経っても勝利の雫はしたたり落ちてこなかったのです。そして、それを長期間継続した結果、経済指標は全体的に改善したものの、デフレは続き、社会の格差はますます拡大してしまったのです。

分配は政府が促していくしかない

そう考えると、市場に任せればすべてうまくいくという新自由主義的な発想には限界があったのかもしれません。つまり「成長はできても、分配はままならない」という限界です。実際アベノミクスでは、日本経済を成長軌道に乗せることはできたものの、期待された大企業から中間層以下への分配(トリクルダウン)は起こらなかったわけですから。ならば分配は今後、政府が促していこう……どうやらこれが、岸田首相が「アベノミクスを踏襲しつつも修正」しようとする理由のようです。

日の丸を見上げる人々のシルエット
写真=iStock.com/Rawpixel
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ただ、岸田首相がアベノミクスを踏襲するのは、総裁選の際、安倍・麻生のいわゆる「2A」の支持を得たからという可能性も否定できません。そのせいか最近の岸田首相の発言は、リベラルな宏池会とは思えないほど強めの言動(二階幹事長下ろし、在任中に憲法改正をめざしたい、中国には毅然きぜんとした態度で、北朝鮮問題で韓国の協力は必要だが原理原則は決して曲げずに)が目立ちます。

「いい人に政治はできるか」「無味無臭」などと、保守系紙に辛辣しんらつに書かれることの多い岸田首相、無理がたたって破綻しなければいいのですが……。

蔭山 克秀(かげやま・かつひで)
代々木ゼミナール公民科講師

「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。3科目のすべての授業が「代ゼミサテライン(衛星放送授業)」として全国に配信。日常生活にまで落とし込んだ解説のおもしろさで人気。『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)など著書多数。