「所得倍増計画」と「令和版所得倍増計画」の違い
その岸田首相が、池田勇人を彷彿とさせる懐かしいネーミングの政策を打ち出しました。「令和版所得倍増計画」です。ただこれを説明する前に、まずは本家・池田勇人の「所得倍増計画」を見てみましょう。
池田勇人の所得倍増計画は、1961年から70年までの10年間で、GNP(国民総生産)を2倍にするというもの。その達成のために、重化学工業や社会資本整備に、どんどん予算をつぎ込み、同時に低金利で企業融資を行える環境も整えました。その前提となったのが、軍事コストのかからない国柄です。「軍事費を節約して、経済で身を立てる」は、まさに池田の師・吉田茂が夢見た「通商国家・日本」の姿です(加えて、宏池会がハト派たるゆえんでもあります)。この軍事費の安さのおかげでGNP増加に集中投資でき、その甲斐あってGNPは、わずか4年で約2倍に、10年で約4倍にまで増やすことができたのです。
これに対し、岸田首相の「令和版所得倍増計画」は考え方がだいぶ違います。本当にGNPや所得を2倍にするのではなく、簡単に言うと、企業に賃上げを促すことで、経済成長が国民全体の豊かさに直結する形をめざすというものです。つまりアベノミクス以降見られるような、一部の大企業だけが富を独占する状況を改め、賃上げ促進税制(従業員給与を引き上げた企業への税制優遇)を強化して「分厚い中間層を復活」させ、「成長と分配の好循環」を実現しようというものです。
これを政策の目玉とするとは、非常に興味深いです。なぜならこれ、安倍内閣でも同種のこと(=所得拡大促進税制)をやり、うまくいかなかったからです。
岸田首相は、当然そのことを知っています。ということは、何かいい修正案があるのでしょう。一国の総理が、まさか手ぶらで大風呂敷を広げたとは思えません。ちなみに、安倍元首相がやったような法人税制の優遇だけでは大企業にしか恩恵はなく(法人税は赤字の中小企業には課税されないから)、それだけでは「分厚い中間層」はつくれないはずです。日本人の給料が上がり中間層が潤うかどうかは正直未知数としか言いようがないですが、岸田首相がそこをどう修正するのか、その手腕に大いに期待しましょう。