親ガチャではなく「政府ガチャ」だ

さらに、子どもの貧困問題について、わが国の研究・政策改善の地平を切り開いてきた阿部彩東京都立大学教授らの指摘からは、生まれる前からの妊婦の不安定な状況(栄養・食・生活習慣格差)が、子どもの健康・発育に影響するというエビデンスも示されている。

「親ガチャ」は生まれる前からの格差の蓄積の産物であり、それを是正しようとしない政権与党(主に自由民主党)の消極姿勢によって、維持され固定化されているのである。

もちろん教育の無償化などの支援策は拡充されつつあるが、「親ガチャ」を解決するための政府投資はあまりに不足している。

わかりやすくいえば、「親ガチャ」なのではなく、「政府ガチャ」なのである。

解決のために必要なたった一つのこと

くりかえそう。

「親ガチャ」を改善するためには「公正な教育機会」の実現こそが、必要なのである。

そしてそれは、現実に可能なことである。

さきほど指摘した生まれる前からの格差のすべてを改善する政策と政府財政出動が行われれば「親ガチャ」は解消可能である。

公正な教育機会を実現するために必要な政策
□出産前からの妊婦の栄養・食・生活習慣格差の改善(出産無償化、特定妊婦への妊婦手当の支給等)
□産まれてからの子どもの健康・発育格差の改善(児童手当拡充、医療費無償化・困難世帯への食やケアなどのアウトリーチ・現物給付の充実等)
□子どもの意欲格差につながる家計不安定・親のケア能力を補う支援(児童手当拡充、委託里親の拡充、子育て世帯への生活支援サービスの拡充、就学前教育~高等教育までのカウンセラー・ソーシャルワーカーの常勤配置による相談支援等)
□乳幼児期からの学校外教育格差への介入(学校外教育バウチャーの支給)
□就学前段階・義務教育・高校教育を通じた学力格差縮減策(困難層の多い学級・学校園の教職員・支援員・スクールソーシャルワーカー・スクールカウンセラーの配置拡充)
□高校・大学受験料の無償化(低所得層からの導入)
□高校・大学の無償化の所得制限の緩和(低所得層から所得制限を緩和し、全所得層に拡大)
□高校中退者、大学・専修学校等の進学歴のない若者の進学支援・リカレント教育機会の拡充と質の向上(リカレント教育バウチャー)
□貸与型奨学金を利用しなければならなかった若者への返済条件・免除条件の緩和

できない、とあきらめる限りにおいて「親ガチャ」は日本からは消えない。

あきらめる必要はない、できるはずだ、というのが筆者の見解である。

すでに教育の無償化等は低所得層には拡充されてきている。小学校35人学級の推進など、教職員配置の充実への政府投資も充実の方向に転換しつつある。

また、今回の衆議院議員選挙において自民党以外の主要政党は、子ども・若者支援や教育支援を大きく拡充する方向性を打ち出している。

※末冨芳「#なくそう子育て罰 立民・国民・共産・公明は公約充実、スカスカの自民 #衆院選2021政策比較」(Yahoo!個人,2021年10月18日記事)

「親ガチャ」を嘆く若い世代の有権者や教育費に悩む親たちが、子ども・若者への投資を拡充させる政党に投票すれば、与党自民党も焦り、政策の実現のスピードが増すことは間違いない。

投票せず「親ガチャ」を維持するのか?
投票し「親ガチャ」を改善するのか?

あなたの一票も、親にフリーライドしてきた日本の政治を変えられる未来と、変えられない未来の分岐点を決めることができるのだ。

末冨 芳(すえとみ・かおり)
日本大学文理学部教授

1974年、山口県生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、文部科学省中央教育審議会委員等を歴任。専門は教育行政学、教育財政学。主著に『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書・桜井啓太氏との共著)、『教育費の政治経済学』(勁草書房)など。