意欲、学力、経済力が再生産される「親ガチャ」の問題に注目が集まっている。日本大学教授の末冨芳さんは「親ガチャを生む格差構造は、ずっと日本に存在しており、特段悪化したわけでも改善したわけでもない。しかし『親ガチャ』を騒ぐマスコミからは、ではどうしたらその格差をなくすことができるのかのソリューションに関する報道や発信は少ない」という――。
女子高生の後ろ姿
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古くて新しい「親ガチャ」問題

教育費問題の研究者であり、内閣府の子どもの貧困対策に足掛け8年にわたって従事してきた筆者からは「親ガチャ」は、古くて新しい問題に見える。

子はどのような親をもつかによって、教育機会だけでなく、学習意欲、体験、そして就業機会の格差まで大きな影響を受ける。

子どもの努力だけでは乗り越えられない、生まれによる格差が温存され、頑張る意欲すら奪われるディストピア(絶望的な社会)。

日本社会もそうした残酷な社会なのである。

それは今に始まったことではない。

生まれによる格差とは、典型的には次のようなケースである。

東京都はじめ都市部高所得層の特に男子は、一年浪人しても行きたいハイレベルな学部(とくに医学部)を目指せるのに対し、鹿児島県や東北地方等の地方部に生まれた女子は大学進学を志しても男尊女卑の価値観による家族や周囲の反対、低所得による自宅外通学の難しさなどにより大学進学すら困難なのである。

私の思い付きで言っているわけではなく、文部科学省の『学校基本調査』や東京大学・大学経営政策センターの研究により、高所得層・都市部在住の保護者を持つ、とくに男子は進学に有利であり、低所得層・地方在住の女子ほど進学に不利であることが、明らかにされている。

※東京大学・大学経営政策センター,2009,「高校生の進路と親の年収の関連について

また日本語学習ニーズを持つ若者は高校段階から十分な受け皿がなく排除され、障害を持つ学習者も高校段階以降の受験・進学機会は極めて厳しい。

まず社会科学分野の研究者であれば既知の事実であるが、家計間の所得格差を示すジニ係数は、1990年代以降おおむね横ばいである。

※井上誠一郎「日本の所得格差の動向と政策対応のあり方について」(2020年7月・独立行政法人経済産業研究所)

悪化するでも改善するでもなく、存在し続ける課題

また日本における社会階層の親子間再生産の調査であるSSM調査(最新年度は2015年度)でも、親子間の学歴や職業の影響については、男女差があり、2000年代においては親子間の学歴・職業等での再生産の度合いが少なくなる(格差が解消される)方向での変化は起きていないことが指摘できる。

※中村高康,2018,「相対的学歴指標と教育機会の趨勢分析――2015年SSM調査データを用いて――」古田和久編『SSM調査報告書4 教育Ⅰ』
※藤原翔,2018,「職業的地位の世代間相関」吉田崇編『SSM調査報告書3 社会移動・健康』

わかりやすくまとめてしまえば、計量的には日本の「親ガチャ」を生む格差構造は、ずっと日本に存在しており、特段悪化したわけでも改善したわけでもない。

しかし、この生まれによる格差という残酷な構造的課題は、時折社会の耳目を集める。

今回の「親ガチャ」ブームもその第N波である。