「上が言っていることだから」が口癖の上司は少なくない。部下は押し黙るしかないのか。20年以上企業のカウンセラーとして活躍してきた見波利幸さんは「いかにも上司を疑るような目で『本当に上が言っていることなんですか?』とやってしまってはダメです。こんなときは相手を気遣う気持ちを持って質問します」という――。

※本稿は、見波利幸『平気で他人をいじめる大人たち』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

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自己愛が強い人

自己愛が強い人は、自分が優位に立ちたい、相手を思い通りにしたい、人を自分より上か下かで判断するといった傾向があります。自己愛型の中でもこの傾向が強い人は、目下の人への態度が高圧的であることが多いでしょう。

自動車メーカーの生産管理部に勤めるSさんは、直属の上司の口ぐせに悩まされています。

ある日の朝礼でのことです。

「来月から、うちが管轄している工場の生産ラインの見直しを行うことになりました。みなさんは、より一層の効率化にむけて準備をしてください」と上司が言ったそうです。Sさんをはじめとする部下たちは、「なぜ、このタイミングで生産ラインの見直しをするのだろう?」と疑問に思いました。というのも、来月は生産管理部の中でも特に忙しい時期であったことと、生産ラインの見直しは数カ月前にすでに行われていてそれなりに効率化ができていたからです。そこでSさんは、「生産ラインの見直しは行ったばかりですし、これ以上の見直しは、難しいのではないでしょうか?」と上司に質問しました。

「上が言っていることだから」の連発

すると上司はこう言ったそうです。

「これは上が言っていることだから。やるって決まったからには、やるしかないんだよ!」

Sさんは「またか……」と思いました。確か先月も先々月も、不可解な指示があり、その目的は何なのか、と上司に聞いたところ同じように「上が言っていることだから」とかわされてしまったのです。

Sさんは「そういえば、この上司の下についてからは、意見を言うたびに『上が言っていることだから』の繰り返しだったな」とため息交じりに振り返りました。

上司に「上が言っていることだから」と言われるたびに、何も言い返せない自分に腹が立つと同時に、「上司はああ言っているけど、本当に上が言っていることなのか? 上司自身の意向なのではないか」と勘繰ったりもしたそうです。

最近のSさんは、自分の意見をまともに取り合ってくれない上司とのやり取りに疲れ果て、仕事へのモチベーションがすっかり下がってしまったと言います。