痩せられない致命的な理由

彼らは、「本気で糖質制限すればやせることができるが、今は意志の弱さのせいでつい大好きな糖質を摂ってしまっている」という認識の上に立っています。

牧田善二『医者が教えるダイエット 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しいやせ方』(ダイヤモンド社)
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こういう理解に留まっている限り、まずやせることはできません。一時的に糖質を控えて体重を落とすことはできたとしても、すぐにリバウンドします。なぜなら、彼らはもっと本質的な理由、すなわち「自分の脳が糖質中毒に冒されている」ことに気づいていないからです。

日本人でBMIが25を超えれば、医学的には「肥満症」という立派な病気です。肥満症という言葉は起きている現象を表現しているわけですが、原因にフォーカスすれば「糖質依存症」と言い換えることができます。

そして、糖質依存症は脳の病気なのです。

脳は、私たちの行動のすべてを決定します。どれほど医療が進歩しても脳だけは移植することはできません。あなたに私の脳を移植したら、もはやあなたは存在せず牧田善二になってしまいます。

このように、その人そのものである脳は、あらゆる指令を出しています。

たとえば、あなたが右手の親指で本をめくっているとしたら、それは手がやっているのではなく脳がそうさせています。

その脳が糖質依存症になっていれば、いくらあなたがやせたいと望んでも、逆の「もっと糖質を摂るように」という強い指令が出されてしまい、あなたはそれに従うしかなくなるわけです。

やせるのが難しいのは、脳が狂っているから。その脳を治さない限り、糖質依存症は治らず、肥満症も治りません。とくに、男性で90kg、女性で75kgを超えているようなケースでは、重度の肥満症に陥っていると考えていいでしょう。

糖質中毒の恐怖

SNS、ゲーム、ギャンブル、仕事、恋愛など行動に依存するのを「行動嗜癖」、アルコール、ニコチン、薬物など物質に依存するのを「物質依存」と言います。

糖質依存症は物質依存で、薬物の中毒と同じようにやっかいです。

「いやいや、いくらなんでも薬物中毒と肥満を同列には考えられないでしょう」と反論する人もいるでしょう。しかし、その認識の甘さがあるから、やせるのは難しいのです。

行動嗜癖にしろ、物質依存にしろ、依存症は一度なったら抜け出すのは簡単ではありません。スティーブ・ジョブズは自分の子どもにiPadを持たせなかったそうですし、麻薬の売人は自らそれに手を出すことをしません。彼らは、中毒になることの怖さをよく知っているからでしょう。

糖質依存症も同じことです。ただ、ご飯やラーメンなど、あまりにも日常的に口にしている食べ物が原因となっているだけに、本人は気づかないのです。気づきが遅ければ、それだけ進行します。

これが薬物依存なら、本人は「明らかにまずいことをやっているがやめられない」という認識があります。

そして、本気でやめたければ「一切、手を出さない」という方法がとれます。

しかし、まさか炭水化物が中毒を呼ぶなどとは思いもしないし、たとえ認識できたとしても、まったく口にしない生活は不可能です。

つまり、糖質依存は、ほかの依存症よりも長い時間をかけて脳を侵食しており、それだけ治すのが難しいとも言えるのです。

牧田 善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長

1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。 2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。 著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。