月の次は火星へ

NASAは、月を目的地とするアルテミス計画だけではなく、2033年の火星有人探査も目指している。しかし、月や火星を目指すのはNASAだけではない。イーロン・マスク率いるスペースX社は、2023年に月旅行ツアーを計画。また、2026年までに、火星に人類を送り込む構想を持っている。べソス氏のブルー・オリジンも月を目指し、大型ロケットや着陸機を開発している。

Spacetideの石田さんは、この2人の起業家は、「将来、人類は居住地を地球だけでなく、宇宙に広げることが、地球のサスティナビリティのためにも必要だ」という考えの持ち主だという。

ベゾス氏のブルー・オリジンという社名も、将来、宇宙で暮らす世代が「僕たちはどこから来たのか」を考える時に、「オリジン(起源)はブループラネット(地球)だ」と答えるだろうということから名付けられているという。

「人口が増えすぎた人類が、どのように地球環境と共存していくべきかを考えると、『人類は宇宙空間に進出すべき』というのが彼らの考え。宇宙開発の大義はそこにある。すると、いずれ宇宙で生まれて宇宙で死ぬという世代が生まれるはずなんです。いつか、宇宙空間で出産する人も出てくるかもしれない」

JAXAの川崎さんも、「我々は将来、月面で世代を重ねるんだろうなと思っています。そうすると当然、男性、女性、子ども、老人、全ての人に対して、どういう影響があるのかを調べる必要があります」という。

日本にもヒーローやヒロインが必要

いずれにしても、そこに行きつくには、まだまだ長い道のりだ。そして、そのためには、国だけではなく、民間企業の力も重要となる。

石田さんは、日本の宇宙産業の発展には、イーロン・マスクのようなアイコン(象徴)となるようなヒーローやヒロインが必要だという。

「顔が見えるって大事ですよね。少年少女の心に刺さるじゃないですか。顔の見えるヒーローやヒロインが出てきて、そういう人たちが切り開いた新しい世界を伝えていくと、それにインスパイア(刺激)されて次の世代がもう一つ上の事をやろうという風になってくる。宇宙開発は時間がかかるからこそ、そういうバトンの受け渡しが大事な業界なんです」

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。