女性や障がい者を宇宙へ

現在では、各国の宇宙機関も宇宙飛行士のダイバーシティ推進に力を入れ始めている。

欧州宇宙機関(ESA)は今年、宇宙飛行士の多様性を目標にし、十数年ぶりに新規募集をしていて、女性や障がいを持つ人も将来の宇宙飛行士候補として積極的に募集している。ちなみにESAがこれまで宇宙に送った女性は、イタリア人のサマンサ・クリストフォレッティさんと、1996年と2001年に宇宙に行ったクローディ・エニュレさんの2人だけだ。

ESAは、障がい者も宇宙に行けるようにと、Parastronaut Feasibility Project(パラストロノート実現可能性計画)という取り組みも進めている。障がい者は予備飛行士のグループと共に、障がい者が宇宙に行くためにはどんなことが必要かをESAと一緒に研究するそうだ。

アメリカでは現在、アルテミス計画という月への有人飛行ミッションに向けて準備が進行中だ。アルテミス計画では、2024年に有人月面着陸を予定し、2028年には月面基地建設を計画しているが、すでに女性宇宙飛行士を月に送ると発表している。

昨年末、NASAは、アルテミス計画のために訓練する18人の宇宙飛行士の名前を発表したが、そのうち9人は女性だ。まだ、誰が月に行くことになるかはわからないが、この9人のうちの少なくとも1人は将来月に行く可能性が高い。

宇宙放射線の被ばく量規定見直しも

また、NASAでは、これまで女性や若い宇宙飛行士に不利だと考えられていた宇宙放射線の被ばく数値の規定が見直されつつあり、宇宙でのダイバーシティがさらに進みそうだ。

地球上では、人間は年間3~4ミリシーベルトの放射線を浴びているそうだが、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の宇宙飛行士たちの被ばく量は年間約300ミリシーベルトに及ぶ。

がんの発症を招く恐れがあることから、これまでNASAでは(主に日本の原爆被爆者の研究に基づいたモデルにより)、実効被ばく線量は、55歳男性で現役を退くまでに400ミリシーベルト、35歳女性の場合は120ミリシーベルトに制限されていた。

ところが今年の6月、全米科学・工学・医学アカデミー(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)は、宇宙飛行士が生涯浴びてよい放射線の被ばく量は性別や年齢を問わず一律600ミリシーベルトに変更すべきという提言を出した。NASAの規定が引き上げられれば、女性宇宙飛行士が宇宙に滞在できる時間も増え、アルテミス計画も進めやすくなるのではないだろうか。