先生は学校の外にいる

いまでは、放課後、異年齢の子どもたちが地域で群れて遊ぶことや、子どもたちが家の仕事を手伝うことはほぼなくなりました。そのような体験は、学校で手にした知識と社会で生きていく力を結びつける大切なものでした。

汐見稔幸『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)
汐見稔幸『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)

クリック1つでなんでも手に入る時代、話しかけるだけでなんでも検索できる時代です。AI時代が進めば進むほど、人間にしかできないことが重宝されるようになっていきます。

地域の人たちが講師になって、幅広い世代の多様な人たちが学校に入り、手仕事や伝統芸能、洗練された質の高い職人文化などを伝える時間、自分で作る楽しさを体験できる時間を確保することもまた、これからの学校教育の担う役割となるでしょう。学校を解体しながら再生させていくイメージが必要です。

また、学びには正解はないとお伝えしましたが、当面どうするかを考えるためには、「適切解」を導き出さなければなりません。そのためには、徹底した討論をすることも大事にしなければなりません。正解がない問いに対しては、アイデアを出し合うしかありません。1人で考えるだけでなく、1人のアイデアをみんなで吟味し、みんなで議論すること、人の意見をしっかり聞き、人の意見と照らし合わせて、自分の意見を伝える。そういうことがますます大事になっていきます。

「デザイン力」と「アート力」

これまでの人類の歴史の中で、経験したことのない問題に関しては、答えはその都度、自分たちで考えていくしかありません。私はそうしたことのできる力を「デザイン力」と呼びたいと思っています。社会と対話しながら、解につながるアイデアを見つけていく、これがデザイン力です。

デザイン力に対応するもう1つの力は「アート力」。これは自分の感情をうまく形にしていく力で、自分との対話から生まれます。このデザイン力とアート力をセットにした力をこれからの問題解決力と言うとすると、それが可能になる学びは、前に触れた「深い学び」の1つになるのだと思います。

子ども同士での議論、世代を超えての議論、価値観や文化の違う人たちとコミュニケーションをとる経験もしておかなければなりません。多様な人たちが話し合いながら、これまでになかった新しいアイデアを創り出すことが、これからの人間には欠かせないのです。

汐見 稔幸(しおみ・としゆき)
白梅学園大学名誉学長、東京大学名誉教授

1947年、大阪府生まれ。東京大学教育学部卒、同大学院博士課程修了。専門は教育学、教育人間学、育児学。育児や保育を総合的な人間学と位置づけ、その総合化=学問化を自らの使命と考えている。主な著書に『小学生 学力を伸ばす 生きる力を育てる』『本当は怖い小学一年生』など多数。近著に『「天才」は学校で育たない』(ポプラ新書)、『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)がある。