不妊治療への健康保険適用は効果的か?
もとより政府は少子高齢化と真剣に向き合おうとしてこなかった。人口減少が始まってもなお、拡大路線の政策を取り続けてきた。コロナ禍で出生数の減少スピードが加速し始めても危機感は乏しく、菅義偉政権が打ち出した政策といえば、不妊治療への健康保険適用範囲の拡大や育休取得の充実といった程度だ。これらが重要でないとは言わないが、日本が置かれている状況を考えるとあまりにもスケールが小さい。
しかも、その政策効果は限定的である。不妊治療費の自己負担が減れば、経済的理由から断念する人が減って出生数増につながるとの思惑が政府内にはあるようだが、治療を受ける人の数や1人当たりの治療機会が多くなったからといって、妊娠に結びつく確率が比例して大きくなるわけではない。
不妊の要因は1つではないが、一般的に年齢が上がるにつれて妊娠しづらくなる。不妊に悩む人が増加した背景の1つに「晩婚・晩産」が進んだことがある。この点に手を付けず、自己負担だけ軽減してみたところでどれだけの効果があるか分からない。
先述した通り、日本の少子化は「出産可能な女性」が激減してしまう構造的要因にあり、これについてはもはや手の打ちようがない。だが、コロナ禍に伴って出生数の減少が加速した状況を食い止め、そのスピードを遅くすることはまだやり得る。これをやり過ごしたならば、日本の滅亡はわれわれが考えるよりもはるかに早く訪れる。
1963年生まれ。中央大学卒業。産経新聞社入社後、同社論説委員などを経て、人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授のほか、厚労省など政府の有識者会議委員も務める。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞をはじめ受賞多数。主な著書にベストセラーの『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』(いずれも講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)、『世界100年カレンダー 少子高齢化する地球でこれから起きること』(朝日新書)など。