実例:いつも息子に勝たないと気が済まない父親

もうひとつ、今度は父親の気づきをご紹介しましょう。

数カ月前のオンラインプログラムに参加してくれたある男性が、プログラム終了後にほかの参加者が次々とログアウトしていく中、一人だけスクリーンの前に残って何か言いたげな表情をしていました。案の定、彼は15歳になる息子さんとの関係について悩んでいました。

彼の話してくれたところでは、息子さんと友好な関係を築けていないとのことでした。どういうことか詳しく聞いてみると、彼はいつも息子さんを批判してしまうというのです。そのような関係を望んでいないにも関わらず、彼のエゴがどうしても子どもに勝ちたいがためにいつも言い負かしてしまうそうでした。

酷に聞こえるかもしれませんが、彼は自分で自分の問題を作り出していたのです。息子さんと15年後、25年後に築き上げていたい関係性をとるか、自分のプライドをとるか。今批判ばかりしていて、25年後に自動的に関係が改善していることなど、まずあり得ないでしょう。

これを聞いて、彼は笑い出しました。そして確かにこの問題を作り上げてしまったのは自分だったと話してくれました。そう気づいた瞬間から、彼は息子さんとの関係を少しずつ変えていけたのだと思います。

実例:わたしの場合

将来のビジョンは必ず今のアクションにつながっています。そして、そのアクションは必ず「今」の瞬間に起きています。

あなたは将来のビジョンでどんな夫婦像を思い描いていますか? また、子どもたちとどんな世界を作り上げていきたいですか?

わたしの息子が生まれる前、わたしは彼の将来についてたくさん考え、そのことについて妻とたくさん話し合いました。たとえば、彼の生まれ持った気質を尊重しつつも、どんな子どもに育てていきたいのか? 彼が進みたい方向に進めるように、どうやったら手伝えるのか?

わたしたちは、息子に創造性を望みました。わたしたちが生きているVUCAの時代において、物事を消費するだけではなく、無から何かを創り出せるスキルを持って欲しいと願いました。

というわけで、いま我が家のリビングはほとんどの人が「ゴミ」と認識するような箱やら、トイレットペーパーの芯やら、出前のプラスチック容器やらで溢れかえっています。そして、息子はそれらを使って毎日何かを作っています。これはわたしたちが100%意図したことです。彼がこの世界に対して受け身ではないことも、そして何かをコンスタントに作り出せることも。

構成=山田ちとら

ジェレミー・ハンター(Jeremy Hunter)
クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー・スクール准教授

クレアモント大学院大学のエグゼクティブ・マインド・リーダーシップ・インスティテュートの創始者。東京を拠点とするTransform LLC.の共同創設者・パートナー。「自分をマネジメントできなければ人をマネジメントすることなどできない」というドラッカーの思想をベースに、リーダーたちが人間性を保ちながら自分自身を発展させるプログラム「エグゼクティブ・マインド」「プラクティス・オブ・セルフマネジメント」を開発し、自ら指導にあたっている。「人生が変わる授業」ともいわれるこのプログラムは、多くの日本の企業幹部も受講している。バージニア大学大学院でも講座を持つ。教育機関以外においても、政府機関、企業、NPOなどでリーダーシップ教育を行っている。シカゴ大学博士課程修了。ハーバード大学ケネディースクール修士。日本人の相撲取りの曽祖父を持つ。