家族信託ができるのは、認知症になる前

家族信託は、委託者と受託者に判断能力がないとできません。したがって、家族信託を検討するなら、認知症になる前(判断力がある時)、です。

契約書の作成は専門家(弁護士や司法書士など)に依頼する必要があり、手数料がかかります。信託する財産の1%程度が相場と言われており、3000万円なら30万円程度が目安です。契約書は公証役場で公正証書にする手数料も必要です。

また相続人が複数いる場合など、契約の内容によっては、親の死後にトラブルになる可能性も否定できません。子などの法定相続人には財産の一部を相続できる「遺留分」があるので、こうしたことも考慮して、信託の契約を決めることが大切です。信託できるのは財産の一部で、全財産を信託することはできませんから、相続なども考慮して、信託する財産や契約内容について専門家に相談するといいでしょう。

もしも受託者になる人がいなければ、信託銀行などを受託者とする「商事信託」もあります。契約書作成時のほか、定期的な報酬もかかります。

代理人が預金を引き出す方法もある

お金の管理だけできればいい、というケースでは、信託銀行で扱っている「代理出金機能付き信託」を利用する方法もあります。あらかじめ代理人を決めておくことで、信託した口座から、生活費や施設入所の費用などを代理人が引き出すことができるものです。200万円程度から信託できます。家族のほか、弁護士や司法書士も代理人になれます。

利用するには、設定時と、毎月の手数料が必要です。金額は金融機関によって異なり、設定時は信託する金額の1~3%程度、月々は500~5000円程度です。1000万円を信託すると、信託時の手数料は10~30万円となります。

兄弟姉妹がいる場合、誰か1人が代理人としてお金を管理すると、トラブルになることも考えられるため、引き出したときには用途や金額を記録しておく、その都度、連絡するなどのルールを作っておくのがおすすめです。私は従妹同士でグループLINEを作り、冠婚葬祭などの連絡を取り合っていますが、そうした方法も便利です。

すべての金融機関が家族信託や代理出金機能付き信託を扱っているわけではありませんが、こうした高齢者の悩みに対応するサービスは増えつつあります。親が利用している金融機関のサービスを調べてみるのもよさそうです。

井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)

関西大学卒業。社会保険労務士。国民年金基金連合会理事。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください 増補改訂版』(日経BP)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)、『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』(日本実業出版社)など著書多数。