時代は確実に変わってきている

上野先生はこの一件について、次のように述べています。「都の役人の女性行政に対する態度が、ここ数年のうちに、もっとはっきり言えば石原都政以後に、大きく変わったことは誰もが気づいている――中略――石原都政以後に、わたしは都にとっては、「危険人物」となったようである」(若桑みどり他編 2006『「ジェンダー」の危機を超える!』青弓社)。

ちなみに、石原慎太郎さんは、学者の言葉を引用したとしながら、2001年に女性週刊誌のインタビューでこのように語っています。「女性が生殖能力を失っても生きているってのは、無駄で罪ですって」。

もし、2020年代になった今、上野先生の講座が中止になったり、現役の都知事があからさまな女性差別発言をしたりすれば大問題になるはずです。時代は確実に進歩したと思います。多くの人々がSNSを通じて意見を発信するようになり、報道もジェンダーというテーマを避けることはほとんどなくなったどころか、大きく取り上げるようにさえなりました。

以前は言われっぱなしだった女性に対する差別的発言にも、今は「言い返し」ができる状況になっています。今後も保守派議員による差別的発言は起きるでしょうが、それに対峙できる社会になってきているのです。こうした流れがさらに加速して、彼らや社会を変える力になることを期待しています。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。