今年6月、男性の育休取得を促進する改正育児・介護休業法が成立した。そもそも、男性が育休を取得することは、どんな意味があるのだろうか。ジャーナリストの大門小百合さんが、脳科学の視点からリポートする――。

「こんな負担で“活躍”なんてできない」

育児は一人では大変だ。生まれて間もない赤ちゃんは、昼も夜も関係なく2、3時間おきにミルクを欲しがり泣く。母親は究極の睡眠不足でふらふらになる。そんな時、夫が仕事を休んで少しでもそばにいてくれたらと思う女性は少なくないだろう。

男性の育児休業を取りやすくするため、6月に国会で成立した育児・介護休業法の改正は、そんな女性たちにとっては朗報だ。

松川るい参議院議員
松川るい参議院議員 写真=本人提供

参議院議員の松川るいさんもそんなワンオペ育児経験者だ。出産当時、彼女は外務官僚で、夫もキャリア外交官。しかし、家事育児はほとんど彼女の仕事だった。「女性活躍とか言っているけど、1日24時間しかないのに、私にだけこんなに負担がかかって、活躍なんかできるわけない」と思っていたという。

現在の日本の男性育休の取得率は、わずか7.48%。しかも1週間以内の短期間の取得が7割を占める。松川さんは、もっと男性に育児休業をとってもらいたいとの思いで、2年前に男性の育休「義務化」を目指す議員連盟を立ち上げ、この法案を推進してきた。

「男性でも育休をとりたいと思っている人もいる。でも、周りから『男のくせにとるのか』などと言われてしまうことも多く、本人の意思だけに任せていては絶対にとれない。だから、企業の方からプッシュ型で働きかけて取らせるというのが一番のポイントだった」と、今回の法改正を振り返る。

ワンオペは「生物学的に不自然」

その結果、今回の改正法には、企業に対し、妊娠や出産を申し出た従業員に制度の周知や取得の働きかけを義務づけたり、出産日から8週間の間に、4週間の育休を取得できる仕組みを新しく作ることが盛り込まれた。また、完全に休みをとることができない男性は、育休中もスポット的に就業することが可能になる。

実は、男性の育休を望む人にとっての追い風は、今回の法改正だけではない。近年、脳や心の発達の研究が進んできたことで、「男性にも十分育児に適した能力がある」ということが科学的にも証明されてきた。そして、母親への育児負担が大きすぎる現在の日本の状況は、「生物学的に不自然である」ということがわかってきたのだ。

そこで、人間科学の分野から子育てを研究している学者の1人である京都大学大学院の明和政子教授に、人間の育児について最近、明らかになってきたことについて詳しく話を聞いた。