「親性脳」の発達に男女は関係ない
明和教授によると、2014年、男女の親性脳の発達に関して、アメリカで興味深い研究が発表されたという。
この研究は、3つのグループに分けた子育て中の親にMRI(磁気共鳴画像診断)撮影装置の中に入ってもらい、乳児の映像を見せて脳の活動を調べたものだ。第1グループは、ほぼ全ての子育てを担っている母親たち。第2グループは、子育てに補助的に関わっている父親たち。そして、第3グループは、子育てを主に担っている父親たちだ。
「その結果、第1グループと第3グループの脳の活動はほぼ同じで、第2グループの父親のみが、親性脳の活動が非常に弱いことが明らかになりました」と明和教授はいう。つまり男性は、育児経験を蓄積することで親性脳が発達することが証明された。
また、これらの脳の変化は、女性、男性を問わず起こる。子育て経験によって起こる親性脳の発達には、生物学的な性差はないことがわかったという。
「長時間労働」と「親性脳」の関係
では、妊娠、出産といった身体的な変化が起こらない男性の親性脳は、いったいいつから発達するのだろうか。
明和教授らは、これまで3年間で100人以上の父親に協力してもらい、「父親はいつから父親としての脳と心を発達させるのか」について調べた。世界初の研究だ。
昨年の12月に発表されたこの研究では、初産で妊娠中のパートナーを持つ男性に3回大学に来てもらい、親性脳がどのように発達しているかをMRIで調べた。
1回目は妊娠20週目、2回目は出産直前、3回目は生後4カ月から6カ月に調査した。さらに、養育行動に関係があるといわれているテストステロンとオキシトシンというホルモンの値も調べ、それらが親性に関わる脳活動とどのように関連するかを検証した。また、育児に関する心理・行動性を調べる質問とインタビューも行われた。
研究の結果、父親の親性脳は、パートナーの妊娠期からゆっくりと発達が始まるが、そこには大きな個人差が存在することが分かった。一方、テストステロンとオキシトシン値の個人差については、親性能の個人差との関連は見られなかったという。この研究結果は、脳機能に関する学術専門誌『NeuroImage』に掲載されている。
研究によると、妊娠期から親性脳の発達が著しかった父親のグループ、親性脳の活動が少し見られたグループがある一方、親性脳の発達が全く見られないグループも3分の1あったという。
そして、こうした個人差は、就労時間や最近の育児経験(乳幼児との交流経験)の有無といった、特定の行動と関連していたという。
妊娠期から親性脳が著しく発達していた男性は、1週間あたりの就労時間が短く、親性脳の発達が芳しくなかった男性群は、長時間労働をしていた。また、親性脳の発達が良かった父親のすべてが、過去2年以内に、赤ちゃんを抱っこするなど、他人や親戚の赤ちゃんと接触した経験があった。
これらの相関関係についての分析は今後の研究に期待したいが、この結果はとても興味深い。
産休や育休をとれば、誰もが同じように親性脳を発達させることができるわけではなく、そこには、個人差があり、それぞれに合った育児支援学級などのプログラムが必要だと明和教授は言う。