「難民」ではなく「一人のグローバル人材」
「私たちが出会った難民の方たちは、母国ではプログラマー、ジャーナリスト、教師、医者、コンサルタント、社会起業家などで、中には4か国語を話せる人もいます。学歴もあり、リーダーシップを発揮し、活躍してきた人が多いんです」と話すのは、WELgeeで就労伴走事業部を統括する山本菜奈さんだ。
山本さんたちがこれまでに関わった190人の半数以上が、大学か大学院卒の学位を持っているという。母国で民主化運動や平和運動に参加したり、宗教を変えたりしたなどのさまざまな理由で弾圧をうけるなどし、命の危険を感じて日本に逃げてきた人たちだ。
難民申請中の外国人に付与される在留資格は「特定活動」と呼ばれ、6カ月ごとに在留期間を更新しながら、長い場合は10年以上も難民認定の結果を待つ人もいる。WELgeeは、企業と接点を作ることで、彼らに難民認定以外の新しい選択肢を作ったというわけだ。
ある西アジア出身の男性は、WELgeeの事業を通じてゼロからプログラミング技術を学び、IT系のベンチャー企業に就職した。また、西アフリカから来た男性は、大手オートバイメーカーの新規事業開発部のアフリカ事業チームに参画した。
とはいえ、マッチング先の企業を探すのは容易ではない。日本語スキルの問題や「難民」という言葉のイメージが障害になるという。ダイバーシティ&インクルージョンを掲げ、女性やLGBTの人たちを積極的に採用しているという企業でさえ、採用には消極的だったそうだ。
「難民という言葉が抱えるあいまいな響きに加え、『貧しい』『かわいそう』というイメージが強すぎて、なかなか一人のグローバル人材としてみてもらえないんです。そこで、プロセスの初期に実際に会ってもらい、彼ら・彼女らの社会に対する視点や、ありあまる向上心、バイタリティに触れてもらうようにしました」
「受け入れないともったいない」
山本さんは、日本のビジネスセクターと一緒に、「日本社会として、難民の人を受け入れないともったいない。彼ら・彼女らがいたほうが、日本の企業も社会も豊かにカラフルになる」という価値観を広げたいと話す。
また、今回注目を集めた入管法についても、「難民保護」という視点だけではない関心の持ち方があるのではないかという。
「『かわいそう、知らなきゃいけない』という入り口から難民の存在を知る人もいますが、『同じ職場で難民の人が働いているんだよね』『難民の人が立ち上げた面白いサービスを新聞で見たんだよね』という人も増えてくればいいなと。そこをきっかけに、入管法の問題を自分ごととしてとらえ、『難民の人たちが日本で安心して働いたり、暮らしたりできるようにするためには、どんな政策が必要か、誰に投票すべきか』を考えるようになってほしいです」
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。