国会で審議された入管法の改正案には、SNSなどで一般市民だけでなく、作家の中島京子さん、ラサール石井さん、小泉今日子さんら著名人も反対の声を挙げて大きなうねりとなり廃案となった。この議論で焦点となった、日本の入国管理の問題はどこにあるのか、ジャーナリストの大門小百合さんがリポートする――。
5月6日に行われた入管法改正案廃案を求める会見。左から作家の星野智幸さん、温又柔さん、ラサール石井さん。スクリーンに映るのは亡くなったウィシュマさんの妹。会見には最近の作品で入管の問題を取り上げた作家の中島京子さんも参加した
写真=大門小百合
5月6日に行われた入管法改正案廃案を求める会見。左から作家の星野智幸さん、温又柔さん、ラサール石井さん。スクリーンに映るのは亡くなったウィシュマさんの妹。会見には最近の作品で入管の問題を取り上げた作家の中島京子さんも参加した=東京都千代田区

海外メディアも大きく報じた入管法改正案議論

普段、日本のメディアで在日外国人、とりわけ入国管理の問題が大きく取り上げられることは少ない。だから、自分とは関係のないことだと思っている人も多いのではないだろうか。

しかし、今国会で与野党の攻防ののち見送られることになった「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の改正案は、出入国在留管理庁の施設(入管施設)に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(33)が施設内で3月に亡くなったこともあり、この種の法案には珍しくメディアで大きく取り上げられ、海外メディアでも報道された。

Japan is shaken after a detainee, wasting away, dies alone in her cell”(衰弱した収容者が独房で孤独死し、揺らぐ日本)という衝撃的な見出しで、ウィシュマさんの死亡と今回の入管法改正案の話を報じたのは、ニューヨークタイムズだ。彼女の死によって、入管行政の不透明さに加え、施設に収容されている外国人に対して入管が絶大な権力を持っていることが明らかになったとの記事を掲載した。

また、イギリスのBBC放送も、“Japan pulls controversial asylum seeker bill after criticism”(政府、批判を受け、難民法を撤回)と報じている。

「難民認定申請中の外国人の強制送還をしやすくする」という、人道的観点での問題点も指摘されたこの法案をきっかけに、日本の入管のあり方や難民をとりまく状況が、今まで以上に注目されている。

なぜ収容が長期化しているのか

今回の改正案について、政府は「オーバーステイなどで国外退去処分を受けた外国人の送還拒否が相次ぎ、入管施設での収容が長期化している」ことを解消するためと説明していた。しかし、そもそもなぜ収容長期化が状態化しているのだろう?

認定NPO法人難民支援協会の石川えり代表理事は、2018年に収容のルールが厳格化されたことも影響しているという。

2015年9月の入管局長通達では、送還の見込みが立たない人については、さらなる仮放免の活用をはかり、仮放免者の動静の監視に努めるとされていた。しかし、2018年2月には、「収容に耐えがたい傷病者でない限り、原則送還が可能となるまで収容を継続する」という入管局長指示が出され、仮放免の要件がかなり厳しくなった。

「その頃から、収容が長期化し2年を超える人も珍しくなくなりました。『収容に耐えがたい疾病者でない限り』というので、施設から出るためには体を痛めつけるしかない、ハンストするしかないと、ハンストを始める方々も増え、その中で餓死された方までいるという状況です」と石川さんは言う。