森発言や枕営業騒動を持ち出さずとも、「ホモソーシャル社会」を感じながら仕事をする女性は多いのではないでしょうか。精神科医の井上智介さんは「日本にホモソーシャルの傾向が強い理由は、男性自身の心理的葛藤と明治以来の家父長制にあります」と指摘します――。
日本の通勤風景
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「男同士の絆」を高めるための行動

そもそも「ホモソーシャル」とは、恋愛や性的な意味はなく、同性同士の関係性をあらわすものです。とはいえ、女性同士はあまり取り上げられず、ホモソーシャル=男性同士という意味合いが強いように思います。いちばんしっくりくる表現は「男同士の絆」「男同士の友情」「師弟関係」といったところでしょうか。

こうした男同士の関係の大前提としてあるのが「価値観の共有」です。その価値観というのが「男らしさ」であり、その男らしさを守るために、男性は女性という別の性に対してどうしても排他的になってしまう。下ネタやセクハラ発言など、女性をネタにして男性同士のウケを狙うのは、まさにそう。これがホモソーシャル社会の問題点です。特に日本はその傾向が強いことは、森発言でも顕著になりました。

無力なのに強く生きることを求められる

なぜ日本はホモソーシャルの傾向が強いのでしょうか。その原因は、男性自身の心理的葛藤と明治以来の家父長制にあります。

もともと男性が生まれて初めて会う女性は「母親」です。赤ちゃんのときに、母親がいないと生死をさまようほど、男性にとって母親は超重要人物。それだけ母親というのは偉大で完璧な女性というところからスタートします。

しかし母親は全知全能であるがゆえに、自分の無力さを感じさせる存在でもあります。相手が助けてくれるのは、自分ができないから。一方で、この世の中には「男性とはこうあるべき」という姿がある程度、明示されていますので、男性は「強く生きなきゃいけない」「傷つくことは恥」といった考え方を身につけて育ちます。

自分は無力なのに、強く生きることを求められる……、すごく矛盾していますよね。だから男性は心の奥底で、常に葛藤を抱えることになります。そこに明治時代の「家父長制」が関わり、その葛藤はますます強まっていきます。