「強いチーム」をつくるために

何事もうまくいかず、どうしたらいいのかと思い悩んだ藤森さん。「自分はマネジャーに向かないのでは」。進むべき方向も見えなくなってしまった。そんな一年を過ごすなかで、藤森さんは等身大の自分に戻り、自身のあり方を見つめ直したという。

「メンバーの役に立たない限り信頼は得られないと気づき、自分が得意なことは何かと思い返したのです。それから、困っているメンバーがいたら、誰よりも早くレスポンスすることを守りました。他部署の人たちとの調整の間に入って助けたり、提案書づくりに悩んでいたら、自分が知っている情報や昔使っていた提案書を渡したりと、さり気なく手助けするように心がけたんです。また、相手の心を開くには、私自身もオープンに接することが大切ではと考え、プライベートなことも話すようになりました」

もともと雑談が苦手で、あまり社交的ではなかったという藤森さん。それでも少しずつ部下と距離を縮めていくことで、ようやく自分のペースができていき、その先にマネジャーとしてやりたいことも明確になった。

「個の力を強くするのはもちろんのこと、その力をチームとして結集させないと組織はうまく回らないことを知りました。だから、強いチームを作りたいと思うようになったんです」

藤森さんが心がけたのは、助けが必要なときは手をさしのべられるようにメンバーと個別の面談を重ねること。また、チームの結束を固めるため、全体の情報を共有して、連携できるような仕組みづくりもした。

部下育成で心がけるようになった「期待値」の共有

さらに部下育成では、「期待値」をはっきりさせることも心がけたという。

「はじめて、日本人以外の部下をもったときに気づかされたのですが、彼らは自分の昇進やキャリアに対してアグレッシブで、『キャリアアップするにはどうすればいいのか』と自ら積極的に聞いてきます。そのときに、こちらはその人に何を求めているのか、何を期待しているのかをはっきりと伝えた上で、こういうスキルを身につけた方が良いのではとアドバイスをするのですが、それは日本人の部下を育てるためにも必要なことでした」

外資系企業においても、日本人の部下は遠慮がちで昇進の相談をされることがほとんどなかった。むしろキャリアをどうしたらいいかわからない、現状維持のままでいいと考える人も少なくないことを、藤森さんは案じていた。

「自分でも肝に銘じているのは、『現状維持は後退の始まり』ということ。同じことをずっとやっているだけでは、社会や組織が変わっていく限り、周りから立ち遅れてしまう。何か新しいことにチャレンジするか、もしくはアプローチを変えてみるように部下へ働きかけるようになりました」