第1子出産後に夫の支援がないことが第2子出産の抑制に

図表2の結果は、「第1子出産直後に夫婦関係が急速に悪化する」ことを意味します。

このような夫婦関係の悪化は、いわゆる「産後クライシス」と呼ばれる現象と近く、女性の幸福度を押し下げる大きな要因になっていると考えられます。

さらに、山口一男教授は別の論文の中で、第1子出産時の否定的な育児経験が第2子出産への障害になると指摘しています[4]。第1子出産後に夫の育児の支援が得られず、夫婦関係が悪化した場合ほど、第2子の出産が抑制される傾向にあるというわけです。

整理すると、①第1子出産→②夫の子育て支援等が得られず夫婦関係悪化→③女性の幸福度低下&第2子出産の抑制、といった流れがありそうです。

子どものいる女性ほど幸福度が低い悲しい現実

現在、日本では「子どものいる女性ほど幸福度が低くなる」という悲しい現実があります。ただし、海外や国内の学術研究の結果からこの背景を検証すると、別の姿が見えてきます。

子どもを持つこと自体は女性の幸福度を高めていますが、そのプラスの効果以上に、お金、夫婦関係、家事・育児負担によるマイナスの影響が大きいといった障害があると考えられます。

中でも、図表1にあるように幸福度が最も低くなっている子どものいる働く既婚女性には、仕事と家庭の両立負担の緩和が重要だと考えられます。

家庭内において女性に偏る家事・育児負担の軽減を行うことで、子どもを持つことによる幸福度の向上を図り、それがさらなる出産に結び付くといった好循環を形成していくことが望まれます。

[1]Stanley, K., Edwards, L., & Hatch, B.(2003). The family report 2003: Choosing happiness?. London: Institute for Public Policy Research及びToulemon, L.(1996). Very few couples remain voluntarily childless. Population, 8, 1–27。
[2]Blanchflower, D. G., & Clark, A. E. (2021). Children, unhappiness and family finances. Journal of Population Economics
[3]永井暁子(2005)結婚生活の経過による夫の夫婦関係満足度の変化, 季刊家計経済研究, 66, 76-81。山口一男(2007)夫婦関係満足度とワーク・ライフ・バランス, 季刊家計経済研究, 73, 50-60。
[4]山口一男(2005)少子化の決定要因と対策について――夫の役割、職場の役割、政府の役割、社会の役割, 季刊家計経済研究, 66, 57-67.

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。