少子化の波はコロナ禍でさらに加速。2021年の出生数は80万人台を切るとの予測も出ています。そんな中、「子どもがいる女性のほうが幸福度が低い」という気になるデータを紹介してくれたのは、拓殖大学准教授の佐藤一磨さん。子どもを持つと幸福度が下がる。少子化の原因をこれほどシンプルに言い表すデータはないのではないでしょうか――。

先進国のデータが示す「子どもと幸福度の意外な関係」

「子どもを持つことは、女性の幸福度にどのような影響を及ぼすのか」

この問は、これから子どもを持とうとする女性や、すでに子どもをもつ女性にとって、興味深いものです。そして、多くの人は「子どもを持つことは、女性を幸せにする」と信じているのではないでしょうか。

しかし、その答えは「No」です。

日本を含めた先進国のさまざまなデータに基づく学術的な研究結果は、「子どものいる女性の幸福度が子どものいない女性の幸福度よりも低くなる場合を多い」ことを示しています。

実際、日本の既婚女性を対象にした分析結果を見ると、女性の就業の有無にかかわらず、子どものいる女性の幸福度の平均値が低くなっています(図表1)。

働く妻と専業主婦の幸福度の違い

なぜ子どもを持つことが幸福度を下げるのか

図表1の分析結果は、統計的な手法を用いて年齢、学歴、世帯所得等のさまざまな個人属性の影響をコントロールしても変わりません。働く妻や専業主婦であっても、子どものいない女性の幸福度が高くなっています。

このような分析結果は、子育てを実際に今行っている人にとって、ドキッとするものではないかと思います。子どもを持つことはポジティブなイメージを伴うことが多いため、分析結果とのギャップに驚くためです。

ただ、この結果を冷静に見ていくと、1つの疑問が出てきます。それは、「なぜ子どもを持つことが女性の幸福度を下げるのか」という点です。

何が原因となり、子どもを持つ女性の幸福度が低くなっているのでしょうか。

子どもを持つこと自体が女性の幸福度を下げるのか

子どもを持つことによって幸福度が低下する背景には、大きくいって2つの可能性が考えられます。

1つ目は、「子どもの存在自体が女性の幸福度を低下させる」という可能性です。

2つ目は、「子どもを持つことに伴うさまざまな変化が女性の幸福度を低下させる」という可能性です。

これら2つの可能性のうち、前者については、妥当ではないと考えられています。子どもを持つことが人生における精神的な充足や幸福につながるメリットがあると指摘する研究があるためです[1]。やはり、子どもを持つこと自体は、幸福度を高める効果がありそうです。

そうなってくると、子どもを持つことに伴う生活の変化が原因としては有力です。

子どもと手をつなぐ母親の手元
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです

それでは、子どもを持つことに伴う生活の変化の中で、何が女性の幸福度を低下させるのでしょうか。

女性の幸福度を下げる3つの要因

これまでの研究を見ると、①お金、②夫婦関係、③家事・育児負担の3つが候補として挙げられます。

まず、①お金ですが、子育てには金銭的な負担が伴います。子どもの衣・食・住を整えるだけでも多くの支出を伴いますが、これに加えて教育費が重くのしかかってきます。高校生の約半分が大学へ進学する現状を考えると、大学までの学費を準備する必要が出てくるかもしれません。また、近年、都市部を中心に中学受験が増えており、さらに多くの教育費が必要になる可能性もあります。

これらの金銭的負担が日々の生活に重くのしかかり、家計を預かることの多い女性の幸福度を低下させるわけです。

②夫婦関係ですが、出産に伴い、「夫・妻」といった役割に「父・母」といった新たな役割が加わります。「父・母」といった役割を最初から十分にこなすことができれば問題ないわけですが、すべての夫婦がうまくいくわけではありません。特に第1子の場合、慣れないことの連続であり、夫婦ともに精神的・肉体的なストレスをかかえ、夫婦関係が悪化することが考えられます。

このような夫婦関係の悪化が女性の幸福度を低下させることが考えられます。

③家事・育児負担ですが、②夫婦関係と密接に関連しています。多くの夫婦は、子どもを持つことに伴って大きく増加する家事・育児負担を「誰が」、「どの程度」担うのかといった問題に直面します。「男性=仕事、女性=家事・育児」といった役割意識が色濃く残る日本では、女性に家事・育児負担が偏ることが多くなっています。

このような重い家事・育児負担が女性の幸福度を低下させる可能性があります。

以上、①お金、②夫婦関係、③家事・育児負担の3つが女性の幸福度を低下させる原因として考えられるわけですが、おそらく、この3つの要因がそれぞれ影響力を持っており、影響の大きさの程度が異なると考えるのが自然でしょう。

ここで次に疑問になるのは、「どの要因の影響力が強いのか」という点です。

ヨーロッパでは「お金」が女性の幸福度を低下させる原因

アメリカのダートマス大学のブランシュフラワー教授とフランスの国立科学研究センターのクラーク教授は、ヨーロッパの延べ120万人以上を調査したデータを用い、子どもを持つ女性ほど幸福度が低くなる原因を検証しています[2]

彼らの研究で注目しているのは、ズバリ「お金」です。

彼らの研究では、「日々の生活費の支払いに困っているかどうか」を分析で考慮した場合、子どもを持つことによる幸福度へのマイナスの影響がどのように変化するのかを検証しました。分析の結果、日々の生活費の支払い状況を考慮すると、子どもの影響がマイナスからプラスへと変化することが明らかになりました。

つまり、子どもを持つことによって女性の幸福度が低下するのは、金銭的負担が主な原因であり、子ども自体は女性の幸福度を高めている、というわけです。

日本において、子どもを持つことに伴うお金の問題は頭の痛くなるものですが、ヨーロッパでも事情は同じようです。

出産後、夫婦関係満足度は右肩下がり

ヨーロッパでは子どもを持つ女性ほど幸福度が低くなる原因について研究が進んでいますが、日本ではまだ研究がありません。このため、何が女性の幸福度を引き下げる決定打になっているのかは、明確にはわかっていない状況です。

ただ、これまでの日本国内の研究を整理すると、お金だけでなく、夫婦関係も女性の幸福度の低下に大きな影響を及ぼす可能性が高いと予想されます。

シカゴ大学の山口一男教授と日本女子大学の永井暁子准教授の研究によれば、子どもを持つことによって夫婦関係満足度が低下することがわかっています[3]。特に山口一男教授は論文の中で、第1子出産時に夫婦関係満足度が低下すると指摘しています。

実際に第1子出産前後の夫婦関係に満足している割合の推移を見ると、出産直後から大きく値が低下しています(図表2)。

第1子出産前後に夫婦関係に「満足」している割合

第1子出産後に夫の支援がないことが第2子出産の抑制に

図表2の結果は、「第1子出産直後に夫婦関係が急速に悪化する」ことを意味します。

このような夫婦関係の悪化は、いわゆる「産後クライシス」と呼ばれる現象と近く、女性の幸福度を押し下げる大きな要因になっていると考えられます。

さらに、山口一男教授は別の論文の中で、第1子出産時の否定的な育児経験が第2子出産への障害になると指摘しています[4]。第1子出産後に夫の育児の支援が得られず、夫婦関係が悪化した場合ほど、第2子の出産が抑制される傾向にあるというわけです。

整理すると、①第1子出産→②夫の子育て支援等が得られず夫婦関係悪化→③女性の幸福度低下&第2子出産の抑制、といった流れがありそうです。

子どものいる女性ほど幸福度が低い悲しい現実

現在、日本では「子どものいる女性ほど幸福度が低くなる」という悲しい現実があります。ただし、海外や国内の学術研究の結果からこの背景を検証すると、別の姿が見えてきます。

子どもを持つこと自体は女性の幸福度を高めていますが、そのプラスの効果以上に、お金、夫婦関係、家事・育児負担によるマイナスの影響が大きいといった障害があると考えられます。

中でも、図表1にあるように幸福度が最も低くなっている子どものいる働く既婚女性には、仕事と家庭の両立負担の緩和が重要だと考えられます。

家庭内において女性に偏る家事・育児負担の軽減を行うことで、子どもを持つことによる幸福度の向上を図り、それがさらなる出産に結び付くといった好循環を形成していくことが望まれます。

[1]Stanley, K., Edwards, L., & Hatch, B.(2003). The family report 2003: Choosing happiness?. London: Institute for Public Policy Research及びToulemon, L.(1996). Very few couples remain voluntarily childless. Population, 8, 1–27。
[2]Blanchflower, D. G., & Clark, A. E. (2021). Children, unhappiness and family finances. Journal of Population Economics
[3]永井暁子(2005)結婚生活の経過による夫の夫婦関係満足度の変化, 季刊家計経済研究, 66, 76-81。山口一男(2007)夫婦関係満足度とワーク・ライフ・バランス, 季刊家計経済研究, 73, 50-60。
[4]山口一男(2005)少子化の決定要因と対策について――夫の役割、職場の役割、政府の役割、社会の役割, 季刊家計経済研究, 66, 57-67.