「私が倒れても仕事に行きなさい」

——現在、40代から50代ぐらいの女性は、これから親が要介護になってくると想定すると、このまま仕事を続けられるのかなという不安がどうしても出てきますよね。

桜木 紫乃・文、?オザワ ミカ・絵『いつか あなたを わすれても』集英社
桜木紫乃・文、オザワミカ・絵『いつか あなたを わすれても』集英社

【桜木】わが家も本当に介護がたいへんになるのはこれからですよね。介護は甘いものではないと知りつつ、それでも、逆の立場になって考えてみると、私なら親である自分のために子どもの時間を使わせたくない。わが家は娘が就職し、取材のある仕事に就いたんですが、「好きで選んだ仕事をしている以上、親の事情でやめてはいけない」と伝えています。例えば、私が倒れるとか、なにかあっても取材先には行って仕事をしてきなさいと。逆に、私も親が危篤という状況でもインタビューの日であれば取材を受けるので。

 

——それは家庭よりも仕事を優先すべきだということでしょうか。

【桜木】優先ではなく、個として不本意な生き方をしちゃいけないということです。何か不本意なことが起きたときに、誰かのせいにしてしまうのが人の弱さ。親の介護に限らず、不本意な生き方をしていると、都合の悪いことを他の人のせいにしたくなりますよね。そうなるぐらいなら、わがままと言われても自分を大事にしたい。息子や娘にも「好きな仕事に就いて明るく暮らしなさい」と言っています。

——読者の中には、子育てに悩むワーママも多いです。正解がない中でもがく女性たちに、先輩からのアドバイスをお願いいたします。

【桜木】子育てって悩むもんだよ(笑)。悩まないお母さんがいたら不思議です。ただ、お母さんがよく笑う人だと、その子どもも上手に笑うし、上手に荒波をのりこえていける人の子は生きる馬力もあるのではないでしょうか。そのぐらい楽観的になれる、お母さんが笑っていける環境を作っていけたらいいですよね。働ける体があるうちは働いて、稼いだお金で温泉に行くことを目標に一緒に頑張っていきましょうよ。

構成=小田慶子

桜木 紫乃(さくらぎ・しの)
作家

1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。2007年同作を収録した『氷平線』で単行本デビュー。2013年『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞。他の著書に『ラブレス』『蛇行する月』など。2020年、『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。近刊に『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』がある。