IT導入に「こんな面白いものはない」と興奮

では、ITについてはどうか。

「エクセルとかワードを使うだけで、プログラミングはやらないので創造性には欠けますけれど、エクセルひとつとっても奥が深いんですよ」

ディスプレーは2台並列。
ディスプレーは2台並列。(写真提供=サンコーインダストリー)

サンコーがコンピュータを導入したのは、1981年(昭和56年)のことだが、玉置によれば導入の6年も前から事前教育が行われていたという。6年という長さに再び驚く。

「先代の社長が大阪の青年会議所というところで情報工学の先生と親しくなって、コンピュータの基礎を勉強させてくれたんです。在庫管理とか私が担当している経理事務もコンピュータ化に適しているということで、それまではソロバン置いて、受け取り台帳とか割引台帳とかいくつもの台帳に手書きをしていて、それが間違いの原因にもなったんですが、コンピュータは入力すればいっぺんに合計も取ってくれるということで、こんなに面白いものはない! というのが当時の私の感想でした」

ゴミを入れたらゴミしか出てこない

玉置は好奇心が強く、変化が好きだという。趣味は読書、俳句、短歌、随筆の執筆。

「いい文章を書くには、写生するのと一緒で物事をじっくりと眺めて、その裏側にあることまで感じとることが大切ですね。コンピュータだって、よく知らない人ほど『なんとなく怖い』ってなるんです。私は導入前に6年も丁寧に教えてもらったから、ちっとも怖いと思わなかった。よくわかってない人には、『コンピュータってゴミを入れたらゴミしか出てこない。有効なものを入力するのが大事よ』って教えてあげるんです」

毎朝20分かけて新聞の見出しをチェックし、休日にはスマホでグルメ情報をゲットしておいしい物を食べに行く。読書も好きで、毎週数冊の本を読むという。

「今日は国際女性デー(3月8日)ですから、渡辺淳一さんの『花埋み』を読み返しています。日本で初めての女医、荻野吟子さんの話です」

今日が人生最後の日になっても悔いがない

玉置の働く喜びとは何だろうか。

「サンコーでは常に、誰かの役に立っているか? と問いかけながら仕事をする。これが根本にあるんですね。経理というのもひとりでやる仕事ではなく、たくさんの人の手を経て出来上がる仕事なので、私も後工程の人が仕事をやりやすいということを常に考えながら仕事をしています。仕事の優先順位もそれで決まってきます。

会社全体がそうだから、自分の仕事が人のためになっているという実感を得やすいのだと思います。伝票ひとつ持っていっても、『ありがとう。助かりました』という言葉を聞けるので、ああ、早く渡せてよかったなぁと思って、それが仕事のやりがい、働く喜びになる。私の信条は禅で言う『いまを生きる』ですが、こういう生き方をしていたら、今日が人生最後の日になっても悔いがないんです」

さて、玉置が並みの高齢者でないことは疑いないが、それとサンコーの「居心地のよさ」はまた別の問題だろう。そして「社長が癒やしてくれる」「(目標が)達成できそうな数字」といった、謎の言葉も謎のままである。

ここは、当の社長に話を聞いてみるしかあるまい。

(後編に続く)

山田 清機(やまだ・せいき)
ノンフィクションライター

1963年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(朝日文庫)、『東京湾岸畸人伝』『寿町のひとびと』(ともに朝日新聞出版)などがある。