新卒の厳選採用の徹底、降格人事の増加
新卒採用に影響を与えるのは避けられないと語るのは広告会社の人事部長だ。
「新卒採用がなくなることはないが、これまでのように景気が回復しても多く採用することはしないだろう。以前は景気が良ければ多少多めに採用し、ハズレ社員が出ても歩留まり率を高く維持することもできた。しかし今後は業績に関係なく毎年一定数を着実に確保していくことになるので、厳選採用を徹底することになるだろう」
次に70歳までの雇用を前提にすれば、現役世代を含む賃金制度の見直しも避けられない。建設関連会社の人事部長はこう指摘する。
「雇用期間が延びる65歳から70歳までの給与は下げざるをえない。一方、現役世代についてもすでに脱年功制に向けた見直しに着手している。若くても優秀であれば昇格スピードを今以上に早めるだけではなく、同時に従来少なかった降格者を増やしていく予定だ。たとえば若手を含めて毎年200人を昇格させるとすれば、逆に100人の降格者を出すなどパフォーマンス重視の賃金体系にしていくつもりだ」
定期昇給、家族手当・住宅手当の廃止
賃金制度の変革で今、注目を集めているのがジョブ型雇用と称される“日本版”職務給だ。従来の年功的賃金と違い、職務スキルとパフォーマンスで給与が決まる職務給は、高い専門性を持つ外部人材を獲得するのにも有利であり、反面、年功的賃金が払拭されるために同じ職務レベルにとどまっている限り、給与が上がることはない。必然的に現在の定期昇給制度も廃止され、中・長期的には社員の高年齢化によって増加する固定費としての人件費を中・長期的に流動費化できるメリットもある。さらに定期昇給制度の廃止にとどまらず、職務給はあくまでも仕事基準なので、年功制時代の家族手当・住宅手当等の属人手当の廃止も可能になる。
賃金制度の変革はそれだけではない。長期雇用の前提となっていた退職金制度のも変革も加速するだろう。従来の退職金は年齢や成果・役職に応じて退職金額が積み上げられ、その原資の運用を会社が行っていた。しかし、運用損が発生すると会社が補塡しなければならず経営上のリスクとなっていたが、近年はそうした退職金リスクを回避するために社員個人に運用を任せる確定拠出年金に移行する企業が急増している。