業績と働き心地は別物と心得て
業績のいい会社を選んだら労働環境が過酷だった、あるいは驚くほど男性優位だった──。転職経験のある人なら、そうした点も事前にリサーチするでしょうが、初めてだとわからないもの。例えは悪いかもしれませんが、「ギャンブル癖のある夫と別れて、ギャンブル癖がない人と再婚したら、今度はアルコール依存症だった」といったような失敗が起こり得るのです。
初めての転職では、「どういう状態なら自分が幸せに働けるか」を企業選びの基準にしましょう。仕事の内容はもちろんですが、働き方の柔軟性、評価制度、研修などの人材育成、ダイバーシティ、社風など、考えるべきポイントはたくさんあります。
求人広告の文章や企業サイトを見るだけでなく、クチコミサイトなどもチェックしてみてください。クチコミはすべてが正しいわけではありませんが、退職者が投稿しているケースも多いので、実情を知るうえではきっと参考になると思います。
なぜ社員に会わせてくれないのか
また、内定まで進んだら、受諾する前にはぜひ、現場の人とカジュアルに話せないか聞いてみてください。採用が仕事の人事担当者は、会社のいい部分しか言っていない可能性があるからです。実際の女性活躍の度合いや育児との両立のしやすさなど、自分が幸せに働くための条件だと思っていることは、現場の人に聞くのがいちばんです。
しかし、もしそのお願いを断られたり、人事担当者の同席が条件だったりしたら、その会社はちょっと注意したほうがいいかもしれません。その場合は、いくら業績がよくてもほかを当たったほうがいいと思います。「業績と働き心地は別物」と肝に銘じて、時間はかかっても自分に合う会社を探したほうが、結果として成功につながるはずです。
そして、転職活動は必ず、今の会社に在職しながら行いましょう。倒産間近だったり、精神的につぶれそうだったりといった切羽詰まった状況でない限り、次の行先が決まってから退職を。たまに、「会社員のままだと日中に転職活動できないから」と先に辞めてしまう人もいますが、転職先がいつ決まるかは未知数です。
収入が絶たれたうえに不採用が続くと、追い込まれた気持ちになるものです。そうなると、面接で元気がなくなり、結果、採用されないという悪循環に。内定前の退職はリスクが大きいと心得て、余裕を残した状態で転職活動に臨んでください。
構成=辻村洋子
1965年兵庫県生まれ、関西大学法学部卒業。1988年、リクルート入社。以降、30年以上転職サービスの企画・開発の業務に関わり、「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」HRプラットフォーム事業部部長、「リクルートメディカルキャリア」取締役などを歴任。2014年、リクルートを退職し、ミドル・シニア世代に特化した転職支援と、企業向け採用支援を手掛けるルーセントドアーズを設立。30年以上にわたって「人と仕事」が出会う転職市場に関わり続け、独立後は特に数多くのミドル世代のキャリア相談を受けている。著書に『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(クロスメディア・パブリッシング)、『35歳からの後悔しない転職ノート』(大和書房)など。