もっとやりたいくらい、農業の仕事は面白い

さすがは北海道といったところだが、異業種といっても、極端にかけ離れた仕事をやってみて、ふたりはいったい何を感じただろうか。岩佐が言う。

新千歳空港で国際線のグランドスタッフとして働く岩佐さん(右)と福島さん(左)。(写真提供=ANA)
農業支援で学んだことを本業でも生かしたいと話す2人。(写真提供=ANA)

「農業でも機械を使うので安全のために声がけをするとか、出荷までにはチームワークが重要だとか、私たちの仕事と共通することがたくさんありました。農家様で学んだことを本業に生かしていきたいと思いました」

とまぁ、ここまでは型通りのコメントである。本音はどうか?

「私は外で働くのが結構好きなので、たった9日間だったからかもしれませんが、面白かったです。正直言うと、もう少しやりたかったですね」

福島はどうか。

「農家様にとてもよくしていただいたので、機会があればまた参加したいですが、参加できるということは本業がまだできないということでもあります……。お客様をお迎えし、出発を見届ける仕事を早くやりたいという気持ちの方が、私は強いです」

海外からの渡航者の「第一印象」を左右する仕事

ふたりの話を聞いていると、航空会社のグランドスタッフには、海外からの渡航者が初めて接する日本人であるという自負が強いことが伝わってくる。たしかに、グランドスタッフの対応いかんで、日本という国、あるいは北海道という地域の第一印象が大きく左右されるのは事実だろう。

彼女たちが余剰時間を使って語学や接客の所作を磨き上げ、農業の支援を通して地域を深く知ることは、少々大げさな言い方をすれば国益につながることだ。福島が言う。

「社員向けのウェブサイトで幹部が書いていたことですが、これまでの接客はこちらからお客様に声をかけて距離を縮める接客だったけれど、これからは、適切な距離を取りながらなおかつ冷淡にならない新しい接客を考えていかないと、ANAが立ち直ることはできないだろうと……」

コロナの傷は大きいが、コロナの影響で新しい接客のスタイルが生まれるのだとすれば、失うものばかりではないのかもしれない。

山田 清機(やまだ・せいき)
ノンフィクションライター

1963年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』 (朝日文庫)、『東京湾岸畸人伝』『寿町のひとびと』(ともに朝日新聞出版)などがある。