「上司の前では黙っていろ」

【岩波】普通の会社員にもあてはまると思いますけど、対人関係にトラブルを起こしやすい人には、

「まずはちゃんと聞け。かぶせて話すな。それでもダメなら、上司の前では黙っていろ」

と言うようにしています。それが日本の社会でうまくやるコツ。

黙って言うことを聞いているほうが賢いのです。そこで、「違いますよ、課長」とか言うと、たとえそれが正しくても、会社としてはダメなのです。

特に人前で言っちゃうと、アウトです。

上司に恥をかかせ、恨みを買うからです。良い悪いの問題ではなく、それが日本的な風習なのです。

【沖田】どうしてもウチらって自分が正義で、自分を基準に考えてしまいがちだから、就職してつまずく。なんで私がこんなことしなきゃいけないんだ、ということが多々あります。

借金玉さんが書いた『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(KADOKAWA)という本を読んで、すごいと思ったのは、「会社に入ったら、そこは部族なんだと思え」。

部族のならわしには従わなければいけない。そう考えたらすんなり理解できます。会社という部族はこういうルールでやってるからこうしてね。酋長さんに言い返してはいけないというのも部族のルール。それは理にかなってるなと思いました。

【岩波】ただ、それだけだと組織としては弱いんです。部族の伝統的なルールだけで何年かもつとしても、どんどん萎んでいく。

仕事中の喧嘩にうんざりする女性
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです

企画力、突破力が、しぼむ組織の救世主になりえる

【岩波】そこをガツンと切り開く企画力、突破力のある発言や行動が、本当は必要なのです。それができるのは、実は発達障害の特性がある方だったりします。

【沖田】アイディアは素晴らしいけどワンマン、みたいなところもある。

【岩波】だから発達障害の人には、陰でサポートする人が必要です。その人の良さをわかって、一緒にうまくマネジメントする人が重要です。ひとりじゃ弱くて潰されるし排除される。

 病院で学習障害と言われたのは、小学生の頃でしたか?

【沖田】はい。小学校4年生のときにLDと診断されています。

【岩波】そもそも、発達障害というのは病名ではなくて総称です。

代表的なものがADHD、ASD、LDで、それぞれ重なる部分もありますが、今でも全体の関連はなかなかわかっていません。

沖田さんのお話を聞くと、こだわりの強さ、対人関係の機微がわからないところはASDに含まれるアスペルガー症候群的なところがあります。けれども人間関係はけっこう多彩に展開されていて、そこは典型的なアスペルガー症候群とは違いますね。

【沖田】先生は、発達障害の女性と男性、どっちが話しやすいですか?

【岩波】男性のほうが治療については型にはまった感じがあります。女性は個別対応が大きいかな。専門外来には大学の後半か、社会人になってから来る方が多いです。男性は仕事にしがみつく傾向がありますね。

そこそこの有名大学を出ている男性は、「この会社に入ったから絶対辞めない!」みたいなタイプが多くて、なんとか薬で保っていることも多いです。女性もそういう人はいますけど、いつの間にか結婚している主婦もいるし、男性よりもバラエティに富んでいますが、そのぶん、定型的な対応ではうまくいきません。