男女とも「見えないルール」から脱却を

第四に、夫婦で自分たちはどうしたいか話し合いをすることが大切です。上記の対策のうち、第一と第二は会社や社会を変えなければなりませんが、第三、第四の対策については夫婦間で実現可能です。会社や社会を変えるのは何十年とかかります。その間にも子どもはどんどん育ってしまいます。そこまで待たずとも、まずは自分たちでできる「夫婦で話し合う」ことから始めてみてはどうでしょうか。

例えば、わが家には小さな子どもが2人います。僕は保育園やサッカー教室への送迎などを担当していて、週のうち4日間は16時まで、残り1日は半日だけという働き方をしています。授業は従来通り行っていますが、それ以外の執筆や企業研修の講師といった仕事は、子どもが生まれてから大幅に減らしました。

収入は減りましたが、僕自身は子育てに関われるのがうれしく、子どもと過ごす時間をとても楽しみにしているので、今のバランスに満足しています。出世の可能性は低くなるでしょうが、僕はもともとそうしたことには興味がないタイプなのです(笑)。それよりも、子どもと過ごせる今の時間を大切にしたいと思っています。

「出世したくない」と言えない空気は問題

しかし、現状では僕のような男性はまだ少数派でしょう。自ら出世を希望する、または出世したくないとは言えない男性がほとんどではないでしょうか。前者の場合は本人の意思だからいいのですが、後者は「自分は大黒柱でなければならない、そうでないと親や妻をがっかりさせる」と思い込んでいる可能性もあります。そうした、昔ながらの男らしさや女らしさにとらわれる時代は、そろそろ終わりにしたいものです。

時代の変化もあり、今後は「見えないルール」への意識も少しずつ変わっていくでしょう。でも、今はまだ過渡期の状態です。女性は育児への責任感から管理職を目指しにくく、男性は稼ぎ手の責任感から出世したくないとは言い出しにくい。この現状を打破して、自分が納得できる生き方や働き方を、誰もが抵抗なく選べる社会を目指していくべきだと思います。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。