AVを見るときに必要なリテラシー

【太田】母親としての思いでもあるんですが、若い男の子たちが、AVで「支配としての性」に触れて、「性ってそういうものだ」と思い込んでしまうのはイヤだなという思いがあります。パートナーとの対等な関係作りや、コミュニケーションについて丁寧に描かれたAVがあってほしいです。そういうことを踏まえた上でいろいろなファンタジーに触れるならまだしも、いきなりレイプや痴漢や、女子高生のセーラー服で興奮するたぐいのAVから入るのはやめてほしい。

【村瀬】同感です。AVを見ることがダメというわけではないんです。

大学の授業では、AVを見るときのリテラシーとして、これだけは考えてほしいと伝えてきたことが2つあります。「相互性」と「対等性」です。この2つが表現されているかどうか。2人が対等な関係かどうか。お互いに相手を楽しませ、双方が快感を得ているという関係を大切にしてほしいと思います。

そこさえ押さえていれば、大きな目で親としては「水清ければ魚棲まず」という気持ちでいるのがいいかもしれません。あまりにも澄みきった水の中では元気よく生きていけないですから。

【太田】そうですね。清いものも濁ったものも混在する社会の中で生きていくときに、大切なのはリテラシーです。まずは大人の方も、こうしたリテラシーを学び直していかなければならないと思います。

【村瀬】対等性が重要なのは、セックスをする時だけではありません。昨年(2020年)末にはアフターピル(緊急避妊薬)を薬局で購入できるようにするべきかという議論が盛り上がりましたが、性教育が遅れている日本でこそ早く実現してほしいものです。コンドームが破れてしまった時や、性暴力被害者にとっても、緊急避妊ができるのは大きな安心になります。アフターピルも、選択的夫婦別姓も、なかなか進まないのは、やはりまだまだ男女が対等な世の中ではないからなのでしょう。

【太田】日常生活でも、ベッドの中でも、大切な人との間に「相互性」と「対等性」があるかどうかは、その2人の関係性に大きな影響を与えると思います。この2点については、さまざまな場面で確認していきたいですね。

構成=太田 美由紀

村瀬 幸浩(むらせ・ゆきひろ)
元高校教師、性教育研究者

東京教育大学(現筑波大)卒業後、私立和光高等学校保健体育科教師として25年間勤務。この間総合学習として「人間と性」を担当。1989年同校退職後、25年間一橋大学、津田塾大学等でセクソロジーを講義。従来の性教育にジェンダーの視点から問題提起を行ってきた先駆者。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会会員。著書に『恋愛で一番大切な“性”のはなし』、共著に『おうち性教育はじめます』など多数。

太田 啓子(おおた・けいこ)
弁護士

2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手がける。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。2014年より「怒れる女子会」呼びかけ人。2019年には『DAYS JAPAN』広河隆一元編集長のセクハラ・パワハラ事件に関する検証委員会の委員を務めた。共著に『憲法カフェへようこそ』(かもがわ出版)、『これでわかった! 超訳特定秘密保護法』(岩波書店)、『日本のフェミニズム since1886 性の戦い編』(河出書房新社、コラム執筆)。著書に『これからの男の子たちへ』(大月書店)。