わかっているのに「できない」危機感

筆者は今から4年前、丸紅従業員組合による働き方改革への取り組みをインタビュー取材している。

それぞれ5年選手、10年選手の丸紅の若手社員が組合専従となった1年間、真剣に自分たちの会社を良くしていこう、生き残れる組織へと体質を変えるべく「ゼロを1にしよう」と社外に学び、思考と試行を重ねているのが印象的だった。組合執行部の彼らはこう語っていた。

「総合商社とはそもそも、全産業にまたがって商流の中に生じる需要と供給のギャップを埋める形で稼ぐのが存在意義であり、取引先や社会のニーズに変化が生まれれば自分たちもその変化に適応して稼ぐ仕組みを新たに構築するのが商社の醍醐味でもあります。その一方で、商社は食品や石油や鉄鋼や化学品といったように、効率的に稼げるよう一つひとつの商材や産業セクションに集中して取り組めるような商品分野タテ割りの組織作りをしてきたので、厳然としたセクショナリズムがあるんです。それぞれのタテの壁を越えた連携は容易ではなく、結局は各部署で自己完結するようなビジネスが中心となっているのが現実です」

拳を合わせるパートナーたち
写真=iStock.com/Deagreez
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画一的な集団からは画一的な発想しか出てこない

「昨今、取引先の各業界は複合的、横断的なソリューションを求めてきているのにもかかわらず、僕たちは総合商社としてその期待に十分には応えられていない。組織間の垣根を超えて、今までのネットワークや知識を組み合わせ、新しい価値を提供していくためには、社員一人ひとりが、組織を重んじる内向き志向に陥ることなく、マーケットやトレンドを重んじる外向き志向を持ち続けなければならない。総合商社だからこそ、ビジネスでも会社運営でも組織横断的な取り組みが必要なのは誰よりも理解しているのに、それでも打ち破れないんです。他商社も同じ悩みを抱えています。ですから、僕らは働き方改革をタテ割り組織の土壌を変える手段の一つとして捉えています」

「大手商社は、残念ながらいまだに画一的な人材の集団です。画一的な集団からは、画一的な発想しか出てこない。外国人や専門性の高い人材・女性やシニアなど、あらゆる多様性が必要なのに、彼らを受け入れられる土壌がまだまだ十分とは言えないんです」