「アンタッチャブル」から議論の対象に

これらのことを考えると夫婦別姓実現のハードルはかなり高いと感じるが、それでも、「今回の議論で、反対派も賛成派もさらに検討することにOKした。それはすごい進歩なんです」と、議論をとりまとめた自民党の女性活躍推進特別委員会委員長の森まさこ参議院議員は言う。今まではアンタッチャブルな問題だったが、双方とも今後も議論することに合意したのは前進だという。

また、夫婦別姓の婚姻届けを受理するように求めた最高裁の2つの小法廷で審議されていた案件が、最近、大法廷に回付された。大法廷は15人の最高裁の裁判官全員で審議するので、通常大事件や社会的な影響の大きい事件を扱う。大法廷に回付されたので、関係者は何か意義のある決定がなされるのではないかと期待をしているようだ。最高裁で違憲判決がでれば、自民党も無視できないはずだ。

「本丸は、さらに検討する場を設置すること。できれば、総裁直轄の特命委員会を作ってもらいたい」と森氏はいう。

森氏は、今回議論をしている中で、反対派だった男性議員数人から「夫婦別姓を認めてもよいと思うようになった」というメールをもらったそうだ。「賛成派、反対派の議論を聞いていて、少なくとも断固反対する話じゃないなと。困っている人が目の前にいたら、知恵を出すのが国会議員じゃないかと」というメールだったという。

まさに、国民が日々直面している問題をどう解決できるか、知恵を出し、実現していくのが政治の仕事だ。「一人っ子で実家の姓を残したい」「改姓で仕事に支障がでる」といった声も多い。

過去25年間で行われた議論は、もう次のステージに進め、新しい夫婦のあり方に目をむけるべきだ。そうでなければ、日本は女性活躍後進国として、世界から取り残されてしまうのではないかと危惧している。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。