※本稿は、野地秩嘉『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
会議アプリの使用率は20%→100%に
新型コロナ危機で身近になったものがズーム、グーグルミートなどの会議アプリだろう。トヨタではマイクロソフトのチームスを使っているが、それはワード、エクセルなどと連動できるアプリだからだ。
同社が2019年に調べた時、会議アプリを使って仕事をしていた従業員は全体の2割に満たなかった。それが2020年秋にはほぼ100パーセントの事技系職員が利用するまでになっている。
そうなると、今後、必要になってくるのは使いこなしだろう。会議アプリはどういった時にどう使うのが生産性向上につながるのか。
情報システム本部長の北明健一は「実はまだ整理がついていません」と正直に言った。
「情報を伝える会議、打ち合わせは会議アプリで充分です。ですが、心の伝達、気持ち、ムードづくりのコミュニケーションは面着(顔を合わせて話すこと)がいい場合が多いのではないでしょうか。
トヨタ生産方式を体系化した大野(耐一)さんは『現場はにおいを嗅ぎに行くところだ』とカイゼン部隊に指示をしたそうです。実際に、現場の本質を知ろうと思ったら、においを嗅がないとわからない。北明という男はどういう表情でしゃべる男なのか、話に気持ちは表れているのか。そういった、においを嗅がないと、人間の本質はわからないと思います。本音と真実は会議アプリでは伝わらないし、判断できないと思う」
頭での理解と心の理解は違う
「たとえば、私が管理職を集めてミーティングする時は、言葉だけでなく表情も見ています。私がしゃべったことがどこまで伝わっているかは表情に表れるからです。頭での理解と心の理解は違います。
理屈っぽいかもしれませんが、知識の伝達は遠隔でいい。けれども、意識の伝達は面着がいい。いくらカメラの精度がよくても、表情とその奥に潜むものは会議アプリではわからない。しかし、そういう感想を言うと、おじさんだからそうなんだと言われるかもしれません」
わたしは北明に言った。
いやいや、おじさんで上等じゃないですか。まさに、そういう話を聞きたかったんですよ。わたしもおじさんですから。
おじさん同士の意見交換ではあったけれど、会議アプリでは人間の表情に潜む気持ちと現場のにおいは伝わらない。
だから、それ以外のものを伝える時に使う。
北明が言うように、知識(knowledge)は伝わる。しかし、技能(skill)、意欲(motivation)を動画で伝えるのは簡単ではない。
要は、会議アプリを使う時は議題、伝えるべきことを整理して、用途に応じて利用する。在宅勤務が基本であっても、出社する機会があるわけだから、顔を合わせて伝えるべきことはその時に行う。