不要になった古着が、途上国へポリオワクチンを届け、国内外の雇用にも

古着deワクチン
(日本リユースシステム/リクルートマーケティングパートナーズ/認定NPO法人世界の子どもにワクチンを日本委員会による共同企画)
今野優子さん石原久子さん

「着なくなったプチプライスの服」「名前の書いてある子ども服」「亡くなった祖母の服や着物」──。

回収袋は特大。Tシャツが約100枚入る強化紙袋(耐荷重25kg)だ。
回収袋は特大。Tシャツが約100枚入る強化紙袋(耐荷重25kg)だ。

リサイクルショップでは値がつきにくいものの、使えるものを捨てる罪悪感からたまる服や小物。それらを手軽に手放し社会貢献も可能にするのが「古着deワクチン」だ。

利用者の手間は少ない。まずはインターネット上で申し込みを行い、古着などを入れる回収袋が入った専用回収キット(税込み3300円)を購入する。キットが届いたら回収袋に不要になった衣類、バッグ、靴、帽子やアクセサリーといった服飾雑貨を詰める。専用着払い伝票を貼り、佐川急便に集荷を依頼、玄関先で渡せば完了だ。

(上)専用キットの封入作業に従事する天成舎の所員たち。取材時はコロナ対策でマスクをして作業していた。(下)インドに送られた古着。約170種類の品目に分類される。
(上)専用キットの封入作業に従事する天成舎の所員たち。取材時はコロナ対策でマスクをして作業していた。(下)インドに送られた古着。約170種類の品目に分類される。

キットの購入費用の一部が、認定NPO法人世界の子どもにワクチンを日本委員会(以下、JCV)に寄付され、ミャンマー、ラオス、ブータン、バヌアツへポリオワクチンが送られる。「ご購入いただいた時点でワクチンの寄付になるので、袋が満杯にならなくても季節ごとに送ってくださるお客さまもいます」と話すのは、日本リユースシステム(以下、NRS)の今野優子さん。

NRSの発案のもと、リクルートマーケティングパートナーズとJCVと共同で2010年からスタートしたこの事業は、20年6月1日時点で250万を超えるワクチンと、2000万枚以上の衣類の再利用につながった。個人で不用品を売買するネットフリマが流行っているが、買い手からの値切り交渉や発送までの手間が嫌という人も多い。「古着deワクチン」ならそういった煩わしさはない。名前を消す必要はなく、多少のシミがあってもOK。

「せっかく回収キットをご購入いただいているのに、あれもダメこれもダメでは送るハードルが高くなってしまいますから、基本的に下着・肌着以外の服や服飾品はすべて受け付けています」

とはいえ、送られてくるものの種類が増えれば、選別の手間もコストもかかる。同社でこれが可能なのは、もともとBtoBでリユース事業を行っていたため、輸出のネットワークやノウハウがあるからだ。

「古着はインドやマレーシアなど、複数の途上国で選別・再販され、現地にビジネスを生み、雇用が生まれています。将来的には、ポリオの障害がある方やシングルマザーの方などに活躍してもらえる直営店舗を、海外で展開していく予定です。支援を受ける側の人たちが人並み以上のお給料を得て自立し、事業としての収益からポリオワクチンを現地からも寄付していける。それを目指しています」

障害者もやりがいを感じる仕事

キット1つの代金から、5人分のポリオワクチン代(100円)がJCVを通じて、ミャンマー、ラオス、ブータン、バヌアツへ届けられる。(写真提供:日本リユースシステム)
キット1つの代金から、5人分のポリオワクチン代(100円)がJCVを通じて、ミャンマー、ラオス、ブータン、バヌアツへ届けられる。(写真提供:日本リユースシステム)

数年前からは国内の障害者雇用を行う3つの福祉作業所で、キットの発送や封入を行うようになった。

同事業に関わるようになって所員を増員したという福祉作業所・天成舎では、所員たちが熱心に封入作業を行っていた。キットの箱に折り目を付ける、箱に入るサイズに回収袋を畳む、バーコードシールを貼るなど、どの所員も見事な手さばきだ。作業しやすい形を模索しながら、キットの改良も重ねたという。ワクチン接種の現地視察に同行した所員を中心に、「人の役に立つ仕事をしている」という認識も深まったそうだ。

撮影=エレファント・タカ、堀 隆弘

ホシカワミナコ(ほしかわみなこ)
フリーランスの編集者・ライター

長野日報東京支社広告営業、大村書店書店営業を経験後、女性向け情報紙「東京パノラマ」、TVスポーツTV誌「TV sports 12」、育児・教育誌『プレジデントFamily』、ビジネス誌『プレジデント』の編集部に在籍。雑誌・書籍・WEB記事・PR関連などさまざまな媒体で活動中。