国内のホームレスの人たちの再スタートを応援
Homedoor
特定非営利活動法人(認定NPO法人)
大阪市でホームレスの人をはじめとする生活困窮者への支援を行うHomedoor。2010年に19歳という若さで同NPOを設立した川口加奈さんがその存在を意識したのは、中学への通学路だった。最初は多くの大人たちと同じ冷ややかな視線で眺めていたが、「気になって、近くで行っていた炊き出しのボランティアに参加しました。そうしたら、おっちゃんたちの中には家庭が困窮して中卒や高校中退で日雇い労働を続け、貧しさから抜け出せないままの人も多かった。私はたまたま中学受験させてもらえる環境にあっただけ。日本なのに、頑張れば将来の道が切り開ける人ばかりではないと気づかされました」。
時を同じくして、中学生によるホームレス襲撃事件が起きたことで、川口さんはホームレス問題と真剣に向き合うようになる。知識を深め、ボランティアに参加し、学校で路上生活者への偏見をなくす活動を起こし、大学在学中に法人を設立した。
精神的安定も得られる宿泊施設付き「アンドセンター」
「大阪には自治体が運営する自立支援センターがありますが、寮は8人一部屋です。東京は貧困ビジネスがはびこっていて、ベニヤ板で仕切っただけの共同部屋でカップ麺を支給され、生活保護費のほとんどをとられてしまうような民間施設を行政から案内されることもあります。ホームレス問題には自己責任論が根強く、当事者の気持ちに寄り添った支援になっていません」
チャンスがあれば再起したいという人たちの大きな壁は「定職と住居がない」ことだ。大阪では住居がなければ生活保護を利用させてもらえないが、仕事がなければ家を借りられないことがほとんどだ。そこで同法人では、行政、企業、不動産業者とネットワークを組んでいる。そして、路上生活者に向けた夜回り活動、宿泊もできる生活応援施設「アンドセンター」へ相談に来た人へのだんらんスペース・シャワー・洗濯機・仮眠スペースや宿泊施設の無料提供、就職先相談、健康診断、居宅移行支援や就労定着支援など、相談者の状況に合わせたサポートを徹底して行っている。例えば就労支援の柱の1つ、「HUBchari」は、ドコモ・バイクシェアと提携したシェアサイクルで、路上生活者の多くが自転車修理ができることに着目して生まれた。事業の収入はすべて、働く元相談者たちの人件費や、路上生活者支援活動費に充てられる。
20年のコロナ禍では、派遣切りをされた相談者が急増し、4月だけで105人と、前年度の3倍近い数に達した。「そもそも相談者の数は年々増加しています。19年度は前年比2.4倍の約750人でした」
そのうち、女性の相談者は約22%。多くは、虐待やDVから逃げてきたり、精神的な病を抱え無収入になったという人々だ。路上生活するよりはマシと水商売に進んでしまう女性も多いなか、18年に無料宿泊施設ができたことで、相談者が増加したという。「誰もが人生のセーフティーネットからこぼれ落ちないように」。川口さんたちの挑戦は続く。
髪の毛が、頭髪を持たない子どもたちのウィッグに
Japan Hair Donation & Charity
特定非営利活動法人(NPO法人)通称:ジャーダック(JHD&C)
病気やけがなどで頭髪に悩みを抱える18歳以下の子どもたちに、寄付された人毛だけで作ったウィッグを無償提供する活動を行うJapan Hair Donation & Charity(以下、ジャーダック)。代表の渡辺貴一さんは、25年前にニューヨークで美容師をしていた頃、髪の毛を寄付する「ヘアドネーション」を知った。帰国後に共同経営者と美容院を始める際、「美容師ならではの社会貢献ができないか」と考え、2009年に日本で初めてヘアドネーションによる子ども向け医療用ウィッグを提供するNPOの設立に行き着いたという。
寄付の流れはこうだ。まず髪の毛の提供者(ドナー)は、ホームページに掲載されている注意事項を美容師に伝え、カットした髪の毛をジャーダックに送る。ジャーダックではそれを長さ別に分け、ある程度まとまったら専門業者に送り、工場で髪質・髪色を均一にするトリートメント処理が施され、ウィッグ用の髪の毛ができあがる。
ウィッグの提供希望者(レシピエント)は頭の型取りを行い、後日頭のサイズに合ったウィッグを受け取る。それを美容院に持って行き、自分の好みの髪形に整えてもらう。消耗品のため、申し込みは19歳になる前日まで、何度でもできる。
1つのウィッグに必要なのは50~100人分の髪の毛
ヘアドネーションを行う団体は複数あり、集めている髪の毛の長さや質は団体ごとに規定が違う。ジャーダックへ寄付する髪の毛は、白髪やカラー、パーマなどをしていても問題ない。ただし、長さは国際規格と同じ、「31cm以上」としている。
「髪の毛の折り返し部分を考えると31cmで、ぎりぎりボブスタイルのウィッグができるくらいの長さ。だからそれ以下の長さは受け付けていません」(渡辺さん、以下同)
髪の毛は抜けては生えてを繰り返すため、カットした髪すべてが同じ長さではなく、約50~100人分で1つのウィッグができると渡辺さん。しかし、「多くのレシピエントが憧れるのは、やはりロングヘアなんです。ロングのウィッグには60cm以上の長さが必要です。長い束ほど短い髪の毛も多く含まれているので、ウィッグにするには、より多くの人の髪の毛が必要になってきます」
さらに、ドナー側は自分の髪形も考慮しておく必要がある。どんな髪形を希望し、その髪形にするにはどの程度の長さが必要か、美容師と事前に相談しておくと間違いが少ない。「一気に短くするわけですから、美容師にはかなりの力量がいります。ドナーの髪質や好みを熟知している美容師に、相談することをお勧めします」
子ども向けのウィッグは既製品が少なく、頭にフィットするセミオーダーのウィッグの価格は約30万~40万円と高額だ。さらに、成長により頭のサイズも変わるため、新調していく必要もある。「ウィッグと気づかれにくい人毛ウイッグで、自分らしくファッションを楽しんでもらいたい」。その思いのもと、設立以降提供したウィッグは449個に及ぶが、20年7月6日現在、430人が提供を待っている状況だ。
不要PCやスマホが、国内の難民雇用促進と子どもの教育支援に
ピープルポート
横浜市のピープルポートでは、不要になったパソコンやスマートフォンを無料回収し、リユースできるものは最新のソフトを入れて中古販売、できないものはパーツごとに分けてリサイクル資源にする事業を展開している。一般的な家電リサイクル業者と違うのは、9人いる従業員のうち2人が日本で難民申請中の外国人という点だ。
代表の青山明弘さんは「社会問題をビジネスで解決する。」を理念に掲げる企業、ボーダレス・ジャパンに新卒で入社し、「日本で難民申請をして不安な日々を過ごしている人たちが安心して働ける場所をつくりたい」と、同グループの子会社としてピープルポートを創業した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2019年末時点で、地球上の97人に1人に値する7950万人が、紛争や迫害で故郷を追われている。一方、同年度の1年間に日本で難民申請をした外国人は1万人以上にのぼるものの、認定者は44人と驚くほど少ない。
「申請者は出入国在留管理局で面接を受けます。避難することになった状況を詳細に伝え、自分に命の危険があることを証明するための書類を日本語訳付きで提出し、結果が出るまでに平均で3~6年、長い人で10年かかります。申請中は6カ月ごとにビザの更新が必要になります」
ビザの期限内に難民申請ができず、不法滞在となってしまったり、難民申請結果が不認定で再審査も認められなかった場合、強制送還されることもある。また、本人がこれをかたくなに拒否した場合は、入管施設に収容されることもある。
青山さんによると、申請期間中に日本人と結婚して日本国籍の子どもがいても、長期収容されるケースがあるという。さらに、国から働く許可を得ていたとしても、日本語が話せないために条件の悪い仕事にしかつけないなど、経済的貧困と社会的孤立ものしかかる。
難民が能力を発揮しやすく、安心して働ける事業とは?
ビジネスが先ではなく、助けたい対象があって、その問題を解決するためにビジネスを考える、それがボーダレスグループの事業のつくり方だ。そこで「日本語の壁を感じずに、彼らが能力を発揮できる仕事を考えたとき、システムが英数字や英語表記で比較的スキルの習得が早い電子機器の修理やメンテナンス事業にいきつきました」。日本社会に慣れてもらうため、日本語学習や不動産賃貸契約などのサポートも行う。
ピープルポートが難民問題に加えて力を入れるのが、電子機器の引き取り価格分(ノートPC1台250円、スマホ1台100円)の寄付だ。貧困や虐待によって教育機会や居場所を失っている子どもたちをサポートする、3つの団体を選定している。
「難民申請中の方の多くは他者貢献意識が強いんです。そこで利益の一部を日本の宝である子どもたちを支援する活動に還元して、難民申請中の人たちの仕事が日本社会にも貢献する仕組みをとっています」
今後は難民申請中の外国人の雇用を100人に増やし、個々の能力が発揮できるよう業態を広げ、海外展開も視野に入れる予定だ。
お金の継続寄付で、子どもの可能性をのばし、豊かな地域をつくる
プラン・インターナショナル・ジャパン
公益財団法人
「女の子だから」家事労働させられる、学校に行けない、早すぎる結婚を強いられる──。途上国の女の子に対する支援の必要性を訴える「Because I am a Girl」のポスターや動画を見たことがある方も多いのではないだろうか。
強烈なメッセージを放つ同キャンペーンを展開するのは、子どもの権利を推進し、貧困や差別のない公正な社会を実現するために世界70カ国以上で活動する国際NGO、プラン・インターナショナル(以下、プラン)だ。日本事務局は1983年に設立(※)し、2011年に公益財団法人として内閣府から認可された。
複数ある支援方法のなかの基盤となるのは、毎月3000円から定額寄付を行う「プラン・スポンサーシップ」。支援者は支援先の地域に住む1人の子ども(チャイルド。男の子も含む)と手紙で交流を図りながら、チャイルドが18歳になるまでその成長を見守る。もちろん、途中で支援が難しくなったときの中止も可能。チャイルドが18歳になったら、新しいチャイルドが紹介される(その際、国や地域が変わることもある)。
この支援で特徴的なのは、寄付したお金が交流しているチャイルドに直接渡るのではなく、プランがその地域で行う、地域の課題を総合的に解決するプロジェクトに使われる点だ。日本のプランの広報マーケティング部の津田恵美さんに理由を尋ねると、「その子だけがお金持ちになっても、地域がよくならなければ問題解決にならないからです」という答えが返ってきた。
「例えば井戸がなければ遠い川まで水くみに行かなければなりません。往々にしてそれは女の子の仕事で、水くみのために学校に通えず、家事労働をさせられたり、早すぎる結婚につながる地域もあります。だから私たちの活動では、現地の人たちで地域に必要なことを話し合ってもらいます。プラン・スポンサーシップへのご寄付はそれを実現するプロジェクトに使われます」
地域に根差した活動を続け男性にも聞く耳を持ってもらう
しかし、そうなると子ども(特に女の子)、障害者といった弱い立場に置かれている人のことは後回しにされないだろうか。それを回避するため、プランではスタッフが長い年月をかけて地域の人との信頼関係の構築に力を入れているという。
「行政や地域のリーダーなどの男性たちと関係性を築き、彼らを巻き込んだうえで、子どもたちの参加も促して話し合います。女の子が1年長く初等教育を受けることで、将来の収入が11%増加するといったデータなどを交えて話すことで、『うちの娘には家事労働より教育を受けさせる』という人が増えていくんです」
支援者に手紙を書き、近況を報告するチャイルドは地域の話し合いで決まるが、なるべく最貧困層の家庭から選ぶ。そうすることで、プランのスタッフの目が行き届きやすくなり、なにかあったときにすぐに相談にのることができるからだ。
世界196の国や地域のうち、途上国は146カ国。全人口の約74%にあたる約57億人が途上国に暮らしているとされている。SDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれるいま、途上国の抱えるさまざまな問題にも目を向けたい。
※日本事務所設立時の名称はフォスター・プラン
不要になった古着が、途上国へポリオワクチンを届け、国内外の雇用にも
古着deワクチン
(日本リユースシステム/リクルートマーケティングパートナーズ/認定NPO法人世界の子どもにワクチンを日本委員会による共同企画)
「着なくなったプチプライスの服」「名前の書いてある子ども服」「亡くなった祖母の服や着物」──。
リサイクルショップでは値がつきにくいものの、使えるものを捨てる罪悪感からたまる服や小物。それらを手軽に手放し社会貢献も可能にするのが「古着deワクチン」だ。
利用者の手間は少ない。まずはインターネット上で申し込みを行い、古着などを入れる回収袋が入った専用回収キット(税込み3300円)を購入する。キットが届いたら回収袋に不要になった衣類、バッグ、靴、帽子やアクセサリーといった服飾雑貨を詰める。専用着払い伝票を貼り、佐川急便に集荷を依頼、玄関先で渡せば完了だ。
キットの購入費用の一部が、認定NPO法人世界の子どもにワクチンを日本委員会(以下、JCV)に寄付され、ミャンマー、ラオス、ブータン、バヌアツへポリオワクチンが送られる。「ご購入いただいた時点でワクチンの寄付になるので、袋が満杯にならなくても季節ごとに送ってくださるお客さまもいます」と話すのは、日本リユースシステム(以下、NRS)の今野優子さん。
NRSの発案のもと、リクルートマーケティングパートナーズとJCVと共同で2010年からスタートしたこの事業は、20年6月1日時点で250万を超えるワクチンと、2000万枚以上の衣類の再利用につながった。個人で不用品を売買するネットフリマが流行っているが、買い手からの値切り交渉や発送までの手間が嫌という人も多い。「古着deワクチン」ならそういった煩わしさはない。名前を消す必要はなく、多少のシミがあってもOK。
「せっかく回収キットをご購入いただいているのに、あれもダメこれもダメでは送るハードルが高くなってしまいますから、基本的に下着・肌着以外の服や服飾品はすべて受け付けています」
とはいえ、送られてくるものの種類が増えれば、選別の手間もコストもかかる。同社でこれが可能なのは、もともとBtoBでリユース事業を行っていたため、輸出のネットワークやノウハウがあるからだ。
「古着はインドやマレーシアなど、複数の途上国で選別・再販され、現地にビジネスを生み、雇用が生まれています。将来的には、ポリオの障害がある方やシングルマザーの方などに活躍してもらえる直営店舗を、海外で展開していく予定です。支援を受ける側の人たちが人並み以上のお給料を得て自立し、事業としての収益からポリオワクチンを現地からも寄付していける。それを目指しています」
障害者もやりがいを感じる仕事
数年前からは国内の障害者雇用を行う3つの福祉作業所で、キットの発送や封入を行うようになった。
同事業に関わるようになって所員を増員したという福祉作業所・天成舎では、所員たちが熱心に封入作業を行っていた。キットの箱に折り目を付ける、箱に入るサイズに回収袋を畳む、バーコードシールを貼るなど、どの所員も見事な手さばきだ。作業しやすい形を模索しながら、キットの改良も重ねたという。ワクチン接種の現地視察に同行した所員を中心に、「人の役に立つ仕事をしている」という認識も深まったそうだ。