デジタル化が脳に及ぼす深刻な影響

柔軟な記憶を作る能力は、複数の作業を同時にしようとすると部分的に失われてしまう。その原因は、情報が海馬だけでなく線条体にも送られてしまうから。記憶のテストでは、被験者が数字や言葉を覚えられるかどうかを調べることが多いが、記憶というのはそれより複雑なものだ。事実に関する記憶は、その人の個人的体験と融合され、知識として構築される。その知識を吟味し、角度を変えて見つめ直したりもして、自分の周囲の世界を理解しようとするのだ。

この途方もなく複雑なシステムが、情報の洪水にどれほど影響されるのか。それはまだ正確にはわかっていない。だが、デジタル化は思ったより深刻な影響を及ぼしていると言えるだろう。考えてみてほしい。記憶のテストで数字を何桁覚えられるかより、もっと根本的に大切なものを今この瞬間も失っているのだとしたら?

アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)
精神科医

ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『運動脳』は人口1000万人のスウェーデンで67万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。