デジタル情報が頭に残らないワケ

デジタルな娯楽の間を行ったり来たりするのは、情報を効率よく取り入れていると思いがちだ。だがそれはあくまで表面的なもので、情報がしっかり頭に入るわけではない。それなのに続けてしまう「原動力」は、そうすることが好きだから。そう、ドーパミンが放出されるからだ。

アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)
アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

デジタルな(悪)習慣に、長期記憶を作る能力はどの程度脅かされるのだろうか。ある実験で、学生に自分のペースで本の1章を読ませ、その後、内容について質問をした。被験者の一部には読んでいる最中にスマホにメッセージが届き、それに返信しなくてはいけないようにした。返信するには時間がかかるから、読み終わるまでの時間も長くなる。その後、全員同じくらい内容を覚えていることが判明したが、メッセージに返信した学生たちのほうが読むのにかなり長く時間がかかっていた。メッセージを読んで返答した時間を差し引いても、同じ1章を読むのに長く時間がかかったのだ。

つまり、集中力を完全に回復させ、読んでいた箇所に戻るのには切替時間が必要なのだ。勉強中にメールやチャットに返信すると、読んでいる内容を覚えるのに時間がかかってしまう。スマホに費やした時間を差し引いてもだ。仕事や試験勉強でマルチタスクをしようとする人は、別の言いかたをすれば、二重に自分を騙しているのだ。理解が悪くなる上に、時間もかかる。チャットやメールをチェックするのは、例えば1時間に数分と決めてしまい、常にチェックしないのがいい方法かもしれない。

脳は近道が大好き

脳は身体の中で最もエネルギーを必要とする器官だ。成人で総消費エネルギーの2割を費やしている。10代の若者なら約3割。新生児など、エネルギーの実に5割が脳に使われているそうだ。今なら欲しいだけカロリーを身体に取り込めるが、石器時代にそれはできなかった。そのため、身体の他の部分と同じように、脳もエネルギーを節約し、できるだけ効率的に物事を進めようとする。つまり、近道をしようとするのだ。記憶に関しては特にそうだ。記憶を作るにはエネルギーがかかるのだから。

それが、デジタル社会で当然の結果を招く。ある実験で、被験者たちは様々な事実に関する文章を耳で聞き、一文ごとにパソコンに書くよう指示された。一部の人はパソコンに情報が残ると言われ、残りは情報は消去されると教えられた。文章をすべて書きこんだ後、覚えているかぎりのことを復唱してもらった。すると、パソコンに情報が残っていると思っていた人は、消されると思っていた人たちよりも覚えていた量が少なかった。

どのみち保存されるのに、なぜそれにエネルギーを浪費しないといけない? 脳はそう考えるようだ。驚くことでもない。作業の一部をパソコンに任せられるなら、そうするに決まっている。保存されるとわかっていれば、情報そのものよりも、情報がどこにあるかを覚えておくほうがいい。被験者たちがワード文書に文を書き留めた実験では、1つの文を1つのファイルにして異なったフォルダに保存してもらったが、翌日になると文の内容はあまり覚えていなかった。一方、どのフォルダにどの文書ファイルを入れたかは覚えていたのだ。

アンデシュ・ハンセン(あんでしゅ・はんせん)
精神科医

ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学を卒業後、ストックホルム商科大学にて経営学修士(MBA)を取得。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行う傍ら、有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。前作『一流の頭脳』は人口1000万人のスウェーデンで60万部が売れ、その後世界的ベストセラーに。