長期記憶をつくるのは脳にとって大仕事

何かを学ぶ、つまり新しい記憶を作るとき、脳の細胞間の繋がりに変化が起きる。短期記憶──短時間だけ残る記憶──を作るには、脳は既存の細胞間の繋がりを強化するだけでいい。だが数カ月、数年、あるいは一生残るような長期記憶を作ろうとすると、プロセスが複雑になる。脳細胞間に新しい繋がりを作らなければいけないのだ。記憶を維持し長く保たれるようにするためには、新たなタンパク質を合成しなければいけない。

だが、新しいタンパク質だけでは足りない。記憶の長期保存には、新しくできた繋がりを強化するために、そこを通る信号を何度も出さなければいけない。この作業は脳にとって大仕事な上に、エネルギーも必要になる。新しい長期記憶を作ること──専門用語では固定化と呼ぶのだが──は、脳が最もエネルギーを必要とする作業だ。これは私たちが眠っている間に行われるプロセスで、後でも見ていくが、人間が眠ることの大事な理由にもなってくる。

人工知能の概念
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スマホが長期記憶の邪魔になる

固定化がどのように行われるのか、もう少し詳しく見てみよう。私たちはまず「何か」に集中する。そうやって脳に「これは大事なことだ」と語りかける。エネルギーを費やす価値、つまり長期記憶を作る価値があるのだと。つまり、積極的にその「何か」に注目を向けなければ、このプロセスは機能しないのだ。昨日、仕事から帰って鍵をどこに置いたのか思い出せない。その原因は、あなたが集中せずに別のことを考えていたからだ。脳は、これが大事だという信号を受け取らず、鍵を置いた場所を記憶しなかった。だから翌朝、あなたは家じゅう探し回ることになる。

同じことが騒がしい部屋でテスト勉強するときにも言える。集中できないから脳は「これが大事」という信号をもらえないし、あなたは読んだ内容を覚えられない。これはつまり、記憶した情報は思い出すこともできなければいけないということだ。言った通り、記憶するためには、集中しなければいけない。そして次の段階で、情報を作業記憶に入れる。そこで初めて、脳は固定化によって長期記憶を作ることができる。ただし、インスタグラムやチャット、ツイート、メール、ニュース速報、フェイスブックを次々にチェックして、間断なく脳に印象を与え続けると、情報が記憶に変わるこのプロセスを妨げることになる。色々な形で邪魔が入るからだ。

絶えず新しい情報が顔を出せば、脳は特定の情報に集中する時間がなくなる上に、限られた作業記憶がいっぱいになってしまう。テレビがついている中で勉強しようとして、おまけにスマホもいじっている。脳はあらゆる情報を処理することに力を注ぎ、新しい長期記憶を作ることができなくなる。だから読んだ内容を覚えられないのだ。