輪廻の「苦」から逃れるため、ブッダの「悟り」をめざす

仏教

信仰主要国 東アジア(中国の一部、タイ)

● 一神教でも多神教でもない
● 信者数:約5.2億人
● 開祖:釈迦(ゴータマ・シッダルタ)(前463年ごろ~前383年ごろ)
● 教典:お経などの仏典(多種存在)

哲学的な大乗仏教と生活に根ざした上座部仏教

仏教の開祖は釈迦しゃかで、ブッダともいわれます。ただし、ブッダが実在したことを証明する資料はまったく存在しません。私自身は、最初期の段階では、複数の悟った人間たちの体験や出家が個別に語られ、それらがやがて一人のブッダの生涯として集約されていったと考えています。

仏教の変遷

仏教において根本的なことは、ブッダの悟りの体験です。仏伝が説明する釈迦はあくまで人間であり、創造神でもなければ、唯一絶対の神でもありません。仏教では、ブッダの悟りに至ることが最大の目標であり、その方法をめぐってさまざまな解釈が仏典として記録されていきました。

しかし肝心なブッダの悟りがブラックボックスであるため、経典や宗派によって教えの内容は大きく異なります。とりわけ、初期仏教への批判から大乗仏教が生まれたことで、さまざまな思想や教えが展開されました。日本の仏教に至っては、宗派仏教になったため、宗祖の教えのほうがブッダの教えよりも尊ばれるという不思議な現象も起きました。

日本人はなぜ無宗教というのか!?

仏教は、発祥の地であるインドではヒンドゥー教に吸収される形で衰退してしまいましたが、初期仏教に近い上座部仏教はスリランカ、ミャンマー、タイなどで定着し、大乗仏教は中国、チベット、日本などで多様な展開を遂げることになりました。

上座部仏教の特徴は厳格な出家主義が守られている点にあり、その点で在家仏教の傾向が強い大乗仏教とは異なっています。教えの内容もシンプルであり、大乗仏教のように哲学的な思索が華々しく展開することはありませんでした。

しかし、出家した僧侶は戒律に則った生活を実践することで、在家信者から尊敬を集めています。上座部仏教の僧侶は僧院で集団生活を営み、生産活動をいっさい行いません。食事は1日1度の托鉢たくはつを行い、在家信者からの布施を受ける。在家の側は、布施によって徳を積めると考えられています。このように上座部仏教では、僧侶と在家信者が相互関係を築きながら、人々の生活に根ざした宗教活動を展開しているのです。

構成=斎藤 哲也

島田 裕巳(しまだ・ひろみ)
宗教学者、作家

放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。