今の日常が変わるわけではない

この話は、同性愛者の結婚に似ているところがあります。現在ニュージーランドでは同性婚が認められていますが、まだ同性同士の結婚が認められていなかった2013年にモーリス・ウィリアムソン議員(当時)は国会で「この(同性婚を認める)法案でやろうとしていることは、ただ愛し合う2人に結婚という形でその愛を認めてあげることだ。それだけだ」と演説しました。

続けて同氏は「今(同性婚を認める)法案に反対している人たちに約束する。明日も太陽は昇る」「十代の娘はやはり全て分かっているかのように言い返してくる。住宅ローンは増えない」と語り、「カエルがベッドから出てくることもない。世界は続いていく。だから大げさにしないでほしい」と結びました。

つまりは同性婚はあくまでも今まで結婚できなかった同性同士が結婚できるようになるという「変化」のみをもたらし、今の日常は良くも悪くもガラッと変わるわけではないのだから安心してください、というわけです。

選択肢が増え、幸福度が増すだけのこと

ニュージーランドではこの演説後に同性婚が認められました。でも当たり前ですが、これにより男性と女性の間の結婚が禁止されたわけではないのです。「選択的夫婦別姓」についても同じことがいえるのではないでしょうか。選択的夫婦別姓が認められれば、今までは自分の意思に反して配偶者の苗字を名乗らざるを得なかった女性は悩みが解消され幸せ度が増します。一方で「夫婦はやはり同じ苗字がよい」と考える人は今まで通り夫婦で同じ苗字を名乗れるわけですから、彼らだって引き続き幸せです。

「選択的夫婦別姓」を認めることで新たな選択肢を増やすことは、幸せな人が増えること。ただそれだけのことなのです。

婚姻届と筆記用具
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夫が妻の氏を名乗るケースはたった4%

先ほど「選択的夫婦別姓が認められれば、今までは自分の意思に反して配偶者の苗字を名乗らざるを得なかった女性は悩みが解消され幸せ度が増す」と書きました。

これに対して、「今までだって、男性が女性の苗字を名乗る選択肢はあった。苗字の選択については元々男女平等だったので『女性が自分の意に反して夫の苗字を名乗っていた』と言うのはおかしいのではないか」という反論があろうかと思います。

民法上「男性も女性の姓を名乗ることができる」のはその通りです。しかし、「民法」と「現実の日本社会」の間には大きな隔たりがあります。というのも厚生労働省によると実際には夫の氏を名乗る女性は96%であり、夫が妻の氏を名乗るのはたったの4%なのです。

男性に都合のよい解釈をすれば、これは「旦那の苗字を名乗りたかった女性が96%もいる」ということになるのでしょう。しかし女性が夫の氏を名乗る背景には、夫、夫婦の親族、職場などが「妻が夫の氏を名乗るのが当然」と考えているため「そうせざるを得なかった」場合が少なくないのです。そういったことから「結婚後の苗字の変更に伴う身分証明書等の書類の手続き」が女性にばかり強いられているという現状があります。