男性脳には難しい「ことばのエスコート」

エスコートの基本は、共感力である。

相手の思いを察して、優しいことばをかける。相手の所作を感知して、手を差し伸べる。

それだけ。

しかしながら、男性脳には、これが本当に難しいのだ。

男性は、とっさに「遠く」を見る、客観優先の脳で生まれてくる。

思考スタイルは、ゴール指向問題解決型。目標に照準を絞って、問題点を洗い出し、ゴールを急ぐ。このため、対話は「いきなり相手の弱点を突く」から始まることになる。

対する女性は、「近く」を満遍なく舐めるように見る、主観優先の脳で生まれてくる。

思考スタイルは、プロセス指向共感型。感情をきっかけに、過去の記憶を次々想起して、深い気づきを生み出す方式だ。このため、対話のはじまりは、一方が「感情」や「過去の出来事」を語り、もう一方が「共感」で受けるのがセオリーだ。

リビングで食事をする男女
写真=iStock.com/chachamal
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現実の会話、理想の会話の違い

「共感受け」が不文律の女性脳に、「いきなり弱点を突く」が定石の男性脳(!)

無頓着に会話していたら、満ち足りたコミュニケーションができるわけがない。だから、こんな会話になってしまうのである。

女性「今日、こんなつらいことがあって」
男性「あ~、きみも、詰めが甘いからな」《問題点の指摘》
女性「……」
男性「いやなら、やめればいいじゃないか」《問題解決》

もちろん、女性の理想は、次の通り。

女性「今日、こんなつらいことがあって」
男性「あー、それは、悲しいよね。きみは、優しすぎるんだよ。世の中には、ぴしっと言わなきゃ、わかんない鈍い奴もいるからね」《共感》
女性「私もタフにならなきゃね」
男性「いや。今のままでいいよ」《承認》
女性「♡」

前者は、たしかに問題解決の1案が提示されている。後者は、対話における明確なゴールは見えない。男性脳的には0点の対話なのだろう。

しかし、「心が通ったかどうか」では、前者はゼロどころかマイナス、後者は満点どころか120点である。

男女の会話は、心さえ通じれば、問題解決にもなる。

恋人の優しさで包まれた女性は、きっとタフになって、「詰めが甘い」から脱出する。結局のところ、本質的なゴールにたどり着くのである。

肩を抱いたり、腰を支えたわけじゃないが、ことばによる上質のエスコートだ。

こういう対話を交わせる男性はモテるし、一緒にいる女性は、ことばのエスコートを受けて、強くなれるし、美しくもなれる。

双方にとって利のある、とても喜ばしいことなのに、現実にはなかなかそういう男子にお目にかかれない。

というのも、思考や対話のスタイルは、本能の領域に属していて、とっさに出力してしまうものだからだ。気がついたときには、もう口に出してしまっている。無意識の信号を、意識的に軌道修正するのは、なかなかに困難なことなのだ。