欠点を消したら、長所は弱体化する
男たちは、「遠くを見る」能力で、荒野を駆け、森を開拓し、闘って家族を守り、子孫を残してきた。数学や物理学の新発見を重ね、橋を架け、ビルを建て、宇宙にも飛び立つ。
しかし「近くが手薄」なので、家の中では、優秀な男性脳ほど、役立たずな感じが漂う。「ぼんやりしがちな、ぱなし男」に見えてしまうわけ。
脳が子育てモードにシフトして「一生で最も気が利く状態」になっている母脳としては、気になってしょうがない。いきおい、「こうしなさい」「早くしなさい」「ほらほら」「どうしてできないの!」と急せき立てたくなってしまう。
とはいえ、「近くを注視して、先へ先へ気が利く」脳の使い方を強制すると、無邪気に「遠く」を見られなくなって、先に述べた長所「宇宙まで届く冒険心や開発力」は弱体化してしまうのである。
あちらを立てれば、こちらが立たず。これが、脳の正体=感性領域の特性だ。欠点をゼロにしようとすると、長所が弱体化する。
息子の脳に、男性脳らしさを根づかせてやりたかったら、その弱点も呑のみ込むしかない。
「息子のトリセツ」基本のキ
というわけで、まずは、息子の一生の「ぼんやり」と「ぱなし」を許そう。
息子のトリセツの、基本のキ。息子育ての法則の第一条と言ってもいい。
「息子のために多少はしつける」はあってもいいが、女性脳レベルを目指して、いきり立たないこと。しないのは、やる気がないのでも、思いやりがないからでも、人間性が低いのでもなく、できないからだと肝に銘じること。
ついでに、夫のそれも許すと、家庭生活は、かなり楽になる。
男と暮らす。男を育てる。それは、「男性脳」の長所に惚れて、欠点を許すということなのである。
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。