※本稿は黒川伊保子『息子のトリセツ』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
「遠くを見る」男性脳、「近くを見る」女性脳
脳には、同時にできないことが山ほどある。
同時にできないなら、「とっさに、どちらを使うか」をあらかじめ決めておかないと危ない。
「遠くを見る」と「近くを見る」は、二者択一である。
「遠く」と「近く」は、同時には見られない。近くも遠くも見ようとすると、全体をぼんやり見るしかない。広範囲に何かを探すときや、スポーツや射撃などの特殊な見極めの場面では、それもまた有効な手段なのだろうが、その状態では、直接的なアクションを起こすことは難しい。
というのも、遠くの目標を注視するときと、近くの愛しいものを見つめて心を寄せるときでは、まったく別の脳神経回路を使うのである。誰もがどちらも使えるが、誰も同時にはできない。
脳内部の神経線維ネットワークを可視化した神経回路図を見ると、前者の使い方をするときは、脳の縦方向(おでこと後頭部を結ぶラインに沿って)が多く使われ、後者の使い方では、右脳と左脳をつなぐ横方向の信号が多発する。「電子回路基板」として見立てたら、明らかにまったく別の装置である。
この世には、とっさに「遠く」を選択する脳と、とっさに「近く」を選択する脳とがある。多くの男性が前者に、多くの女性が後者に初期設定されている。すなわち、「遠くの目標物に照準を合わせる」仕様と、「近くの愛しい者から意識をそらさない」仕様に。
理由は、明確でしょう?
男性脳は狩り仕様に、女性脳は子育て仕様に、初期設定されているのである。そのほうが、生存可能性が上がり、かつ、より多くの遺伝子を残せるからだ。