「気が利かない」「なんでも出しっぱなし」……。そんな息子の様子に頭を痛める母親は多いのでは。脳科学・AI研究者の黒川伊保子さんは「母親が、『男性脳学』を学ばずに男の子を理解するのはなかなか難しい」と指摘する。彼らの行動のメカニズムとは——。

※本稿は黒川伊保子『息子のトリセツ』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

おもちゃに囲まれた子供
写真=iStock.com/FamVeld
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「遠くを見る」男性脳、「近くを見る」女性脳

脳には、同時にできないことが山ほどある。

同時にできないなら、「とっさに、どちらを使うか」をあらかじめ決めておかないと危ない。

「遠くを見る」と「近くを見る」は、二者択一である。

「遠く」と「近く」は、同時には見られない。近くも遠くも見ようとすると、全体をぼんやり見るしかない。広範囲に何かを探すときや、スポーツや射撃などの特殊な見極めの場面では、それもまた有効な手段なのだろうが、その状態では、直接的なアクションを起こすことは難しい。

というのも、遠くの目標を注視するときと、近くの愛しいものを見つめて心を寄せるときでは、まったく別の脳神経回路を使うのである。誰もがどちらも使えるが、誰も同時にはできない。

脳内部の神経線維ネットワークを可視化した神経回路図を見ると、前者の使い方をするときは、脳の縦方向(おでこと後頭部を結ぶラインに沿って)が多く使われ、後者の使い方では、右脳と左脳をつなぐ横方向の信号が多発する。「電子回路基板」として見立てたら、明らかにまったく別の装置である。

この世には、とっさに「遠く」を選択する脳と、とっさに「近く」を選択する脳とがある。多くの男性が前者に、多くの女性が後者に初期設定されている。すなわち、「遠くの目標物に照準を合わせる」仕様と、「近くの愛しい者から意識をそらさない」仕様に。

理由は、明確でしょう?

男性脳は狩り仕様に、女性脳は子育て仕様に、初期設定されているのである。そのほうが、生存可能性が上がり、かつ、より多くの遺伝子を残せるからだ。