コロナでロックダウンした国は元には戻らない

私はすでに十数年シンガポールに住んでいるが、国のすべてを閉鎖したシンガポールの影響は、数年後にわかるだろう。確かなのは、二度と昔の繁栄期に戻ることはないことだ。仮に戻るとしても、膨大な時間がかかるだろう。

ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)
ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)

シンガポールで何が起きているか定かではない。なぜなら政府は何も公表しないからだ。おそらく、債務比率は大幅に上がっているだろう。

IMFのウェブサイトで確認すると、シンガポールの対GDP債務比率は、世界の上位に位置する。政府は債務を上回る膨大な準備金(景気の悪化に備えて保有している政府の純資産。その規模は国家機密)があると言い訳をしているが、準備額や負債額などは公表していない。準備金が減れば、若い世代の将来は暗くなる一方だ。

今回、新たな債券を発行していなくても、準備金を減らしているとすれば、純負債は増額していることになる。

最近のシンガポールドル安は、コロナ不安によって買われた米ドルの米ドル高によるものだろう。投資家の米ドル買いを受け、米ドル対比では多くの通貨が下落している。

世界中の投資家は経験則的に米ドルが安全資産だと考え、今回も米ドルへの巨額の資金流入が起きているわけだ。

国を閉鎖しなかった中国、恥ずかしい失態のアメリカ

一方で国を閉鎖しなかったのは中国だ。実は、2020年1月10日・11日に私はたまたま講演のために中国湖北省武漢市にいた。当時すでに皆が新型コロナウイルスについて知っていたが、そこまで気にしている様子はなかった。私は1000人超が集まるイベントで講演をしたのだが、招待してくれた保険会社の判断でキャンセルもされず予定通り行われた。マスクをしている人はちらほらと見かけたが、欧米と違い、コロナ以前から中国には風邪などでマスクをしている人が普通にいたので、特にいつもと変わらない光景だったように思える。

私自身、リスクが高いとされている年齢にもかかわらず無事生き延びたことは、今思うとラッキーだったと言えるだろう。

その後、私が武漢にいた事実を知っている取材陣は、私が軽く咳払いなどをするだけで恐れているようだった。体温が平熱であることを見せると、少し安心したようだったが。

近代的な都市を背景にした小さな女の子が目を閉じている
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

その後、一気に事態は悪化し、武漢は完全に閉鎖されることになってしまったのだが、結局は中国の国を挙げた素早い対応により、最初に新型コロナウイルスの感染拡大が確認された地であるにもかかわらず、他国ほど深刻な状況には陥らなかった。

アメリカは感染拡大までに数カ月の準備期間があったにも関わらず、何もしなかったために医療崩壊に陥った都市もあった。これはアメリカ国民としても本当に恥ずかしい失態である。コロナがアメリカで発生した時には検査すらなかったのだから。中国で初めてコロナが蔓延し、国が打撃を受けたのは当たり前だが、アメリカは準備期間があったにも関わらず、中国よりひどい打撃を受けている。

そして中国では、すでにレストランやカフェ、そして講演なども再開しており、人々が普通に生活を楽しんでいる。発生源である武漢は完全閉鎖したものの、国全体を閉鎖しなかったのがよかったのだろう。

その意味では、日本も完全に経済を閉ざさなかったので他国に比べて打撃は少なかったと言える。都市を完全に封鎖した国のダメージは今後計り知れない。