世界的投資家として知られるジム・ロジャーズ氏は、「次の世界的不況は間違いなく私の人生で最悪のものとなるだろう」と話し、現在のマーケットはバブル破裂前の過熱相場であると指摘する。氏が予測する市場の二番底はいつなのか――。

※本稿は、ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

人生最悪の暴落の予兆はすでに始まっている

次の世界的不況は間違いなく私の人生で最悪のものとなるだろう。もうすでに、クラッシュは始まっているかもしれないが、これからさらに悪化すると考える。コロナショックを発端として、世界中の債務が過去にないほどの規模に膨らんでいるからだ。

日本株は最高値を更新する可能性があると指摘するジム・ロジャーズ氏。(撮影=原 隆夫)
日本株は最高値を更新する可能性があると指摘するジム・ロジャーズ氏。(撮影=原 隆夫)

リーマンショック前の2008年も世界的に債務が膨れ上がっていてひどい状態だったが、前例のないコロナショックでさらにひどい状況になっている。主要国の金利は今ほぼゼロだが、どこかで金利上昇が起こるはずだ。そのときには多くの人や企業が破綻するだろう。

もし近い将来にクラッシュが起きたら、各国の中央銀行や政府は、再び今とまったく同じことをするに違いない。紙幣を印刷し続けて債務を増やし、支出し続ける。そして、株などの資産をできるだけ買うだろう。

しかし、どこかで相場参加者は中央銀行と政府の行動を信じなくなるはずだ。彼らがいくら紙幣を刷っても、相場に影響を与えなくなる日がくるだろう。楽観的な人々が少し時間を稼ぐかもしれないが、いずれはツケが回り、紙幣は意味をなくし、金融商品の相場は暴落するだろう。

子ども世代が背負う膨大な債務のツケ

あなたの子どもたちは、さまざまな破綻を経験することになるだろう。政府が破綻するのは歴史的に稀なことだが、将来的に子ども世代がもらう年金は、大量の借金と紙幣印刷によって、現在と比べて価値が著しく下がるだろう。

ロシアの高齢者たちは今でもソビエト連邦時代の年金をもらっているが、ひどいインフレによって、もらっている金額は実質ゼロに等しいのをご存じだろうか。

リーマンショック以降、アメリカの債務は大きく膨らんできたが、2019年10月末、アメリカの公的債務残高が国際通貨基金(IMF)の2020年10月の発表によれば、2800兆円を超えた(1ドル=105円換算)。トランプ政権が行った大幅減税による税収ダウンや国債発行の増加がその原因だ。

世界最大の対外債務を抱えるアメリカの経済悪化により、米国債の債務不履行を引き起こす懸念が高まれば、米国債の価値は相対的に下がり、金利が上昇する。そのとき、世界中で景気が悪くなる。

アメリカや日本に限らず、債務の危機は世界中で起きている。コロナ危機に対応して、各国の中央銀行や政府はさまざまな対策を講じている。それによって市場の下落は止まったが、対症療法的な間違った解決策は、状況を悪化させるだけだろう。

リーマンショックの際に世界を救った中国でさえ、地方政府や国有企業の債務が増大している。18年には、ラトビアの銀行が破綻し、アルゼンチン、トルコ、インドの銀行などでも問題が起きている。20年3月にはレバノンがデフォルトし、アルゼンチン、ブラジル、トルコもデフォルトの危機に瀕している。

これからも再び国や企業のデフォルトは増えると予想する。膨大な債務のツケはいつか払わなければならない。

コロナでロックダウンした国は元には戻らない

私はすでに十数年シンガポールに住んでいるが、国のすべてを閉鎖したシンガポールの影響は、数年後にわかるだろう。確かなのは、二度と昔の繁栄期に戻ることはないことだ。仮に戻るとしても、膨大な時間がかかるだろう。

ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)
ジム・ロジャーズ『大転換の時代』(プレジデント社)

シンガポールで何が起きているか定かではない。なぜなら政府は何も公表しないからだ。おそらく、債務比率は大幅に上がっているだろう。

IMFのウェブサイトで確認すると、シンガポールの対GDP債務比率は、世界の上位に位置する。政府は債務を上回る膨大な準備金(景気の悪化に備えて保有している政府の純資産。その規模は国家機密)があると言い訳をしているが、準備額や負債額などは公表していない。準備金が減れば、若い世代の将来は暗くなる一方だ。

今回、新たな債券を発行していなくても、準備金を減らしているとすれば、純負債は増額していることになる。

最近のシンガポールドル安は、コロナ不安によって買われた米ドルの米ドル高によるものだろう。投資家の米ドル買いを受け、米ドル対比では多くの通貨が下落している。

世界中の投資家は経験則的に米ドルが安全資産だと考え、今回も米ドルへの巨額の資金流入が起きているわけだ。

国を閉鎖しなかった中国、恥ずかしい失態のアメリカ

一方で国を閉鎖しなかったのは中国だ。実は、2020年1月10日・11日に私はたまたま講演のために中国湖北省武漢市にいた。当時すでに皆が新型コロナウイルスについて知っていたが、そこまで気にしている様子はなかった。私は1000人超が集まるイベントで講演をしたのだが、招待してくれた保険会社の判断でキャンセルもされず予定通り行われた。マスクをしている人はちらほらと見かけたが、欧米と違い、コロナ以前から中国には風邪などでマスクをしている人が普通にいたので、特にいつもと変わらない光景だったように思える。

私自身、リスクが高いとされている年齢にもかかわらず無事生き延びたことは、今思うとラッキーだったと言えるだろう。

その後、私が武漢にいた事実を知っている取材陣は、私が軽く咳払いなどをするだけで恐れているようだった。体温が平熱であることを見せると、少し安心したようだったが。

近代的な都市を背景にした小さな女の子が目を閉じている
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

その後、一気に事態は悪化し、武漢は完全に閉鎖されることになってしまったのだが、結局は中国の国を挙げた素早い対応により、最初に新型コロナウイルスの感染拡大が確認された地であるにもかかわらず、他国ほど深刻な状況には陥らなかった。

アメリカは感染拡大までに数カ月の準備期間があったにも関わらず、何もしなかったために医療崩壊に陥った都市もあった。これはアメリカ国民としても本当に恥ずかしい失態である。コロナがアメリカで発生した時には検査すらなかったのだから。中国で初めてコロナが蔓延し、国が打撃を受けたのは当たり前だが、アメリカは準備期間があったにも関わらず、中国よりひどい打撃を受けている。

そして中国では、すでにレストランやカフェ、そして講演なども再開しており、人々が普通に生活を楽しんでいる。発生源である武漢は完全閉鎖したものの、国全体を閉鎖しなかったのがよかったのだろう。

その意味では、日本も完全に経済を閉ざさなかったので他国に比べて打撃は少なかったと言える。都市を完全に封鎖した国のダメージは今後計り知れない。

バブル破裂前の過熱相場になっている

アメリカの株式市場は、おそらくコロナ前にすでにバブルだったのだろう。約10年、株価は上昇し続けていたが、これは歴史上にない現象だ。それがバブルの定義という訳ではないが、バブルの症状だったことは確かである。

そのままいけば、20年連続で株価が上昇してもおかしくない状態だった。コロナ直前には、何があっても毎日、株価が上昇する銘柄もあった。最近になって再び、何銘柄かが何があっても上昇し続けている。

よってコロナ前のバブルにはすでに小さい穴が開いていたかもしれないが、いまだ破裂はしていない。そして私は、最近の相場こそがバブルの破裂前にやってくるいわゆる「過熱相場」だろうと思っている。

株式市場が長い間上昇して、資金が大量に流入すると、株価が急上昇して相場が過熱するケースが多い。

例えば、1989〜90年の日本株や99年のアメリカ株がそうだった。ナスダック株式市場は、99年の時点ですでに数年にわたり上昇していたにもかかわらず、最後の6カ月でさらに倍増した。これが過熱相場である。

今がまさに株式のバブルかもしれない。世界の中央銀行が紙幣を大量に刷っており、市場に資金が大量に流入している。日本銀行の総裁もできるだけ早く紙幣を刷り、その資金で債券、ETF(上場投資信託)を買って相場を支えている。

日本株は最高値を更新する可能性

日本株は過去最高値から40%以上も落ち込んでいたが、このままいけば、最高値を更新する可能性すらある。こういうと驚く人が多いだろうが、その可能性は十分にあると、私は考えている。

アメリカ株もバブルがもっと加速するかもしれない。コロナウイルスのワクチン、あるいは治療薬が発表されたら、すべての相場が過熱してもおかしくない。強い高揚と大量の資金注入を受け、すさまじいバブル相場になる可能性は非常に高い。

すでに景気は底打ちしている。そして長期間にわたり、改善するだろう。空港にフライトが少しでも増えれば、ゼロよりは改善したことになる。

そして必ずと言ってもいいほど、過熱した「バブルの末期」には暴落が待っている。相場過熱時には、勢いで買いが入り、上昇しているというだけで買ってしまう人も出てくる。歴史をさかのぼれば、この買い方が功を奏したことは稀だ。

もし、短期的なモメンタム売買(相場の勢いや方向性を判断する売買)のベテランだったら大丈夫かもしれないが、大半の投資家は火傷を負うことになる。私はモメンタム売買を一切しない。

マーケットの二番底はまもなく来るかもしれない

アメリカでコロナ感染者数が上昇しているのは、検査数が増えたからかもしれない。感染者数とは異なり、死者数は増加していないように見える。公開されている統計というものは、報道やニュースと同様、疑う余地がある。

私は統計の信憑性について言及できないが、メディアは新聞や雑誌などをもっと売るために、オンラインの記事をもっとクリックしてもらうために、ニュースを誇張して報道しているかもしれない。

私は市場の二番底のタイミングを予測するのは苦手だが、来るとすれば前述の通り、バブル末期の過熱相場後になると考える。注意すべきは、2021年だ。二番底は21年の前半になる可能性があると考える。

歴史的に見て、アメリカの大統領選の翌年の株式相場はあまりよくない。誰が勝ったとしても選挙年に大量の支出があるからだ。翌年は4年後の選挙に備えるために、支出を減らす傾向にある。

相場が過熱して、日経平均株価が再び過去最高値の約4万円まで上昇すれば、21年、22年は不安になる。バブル相場にハッピーエンドはないからだ。

バブル相場というものは、「○○の熱狂」をつくる。たとえば、「日本株の熱狂」や「ハイテク株の熱狂」だ。そのときに最初にやられるのは、熱狂を信じていない人たちだ。彼らがまず空売りして壊滅的なダメージを被る。

その次に熱狂を信じている人たちが全滅する。彼らは熱狂に乗っかり、過熱相場の終焉にすべてを失う。つまり、最終的には皆が全滅する。

バブルを信じない老獪な年寄りの私が参戦したとしたら、まず最初に壊滅するだろう。この相場はクレイジーだと考え、早めに空売りを仕掛けるからだ。

その間、どこかの20代の若者が「俺は天才だ、なんて簡単な相場だ」と思いながら、株を買い続ける。空売りを仕掛けた私はそこで破産する。しかしその後やってくるバブル崩壊で彼らも全滅する。過熱相場に懐疑的な人も熱狂を信じる人も誰もかもが大損害を被る、それがバブルなのだ。

もはや世界はインフレから逃れられない⁉

世界的な金融緩和でジャブジャブになっているのは各国の政府だけではない。10年前はまともな金融機関からの借入ができなかったような会社が、今では銀行から自由に融資を受けられるようになっている。絶対に借りてはいけないような状況下の企業も資金調達が容易にできている。

どんなに時間稼ぎをしてもいずれこのゲームは終焉を迎え、金利が上昇すれば、最悪のシナリオが待っている。それでもお金を刷り続ければ、企業の過剰借入を招き、設備が過剰になる。結果、インフレが誘発される。

一方で価格上昇のインフレも起きる。例えばシンガポールでは、すでにコロナによるロックダウンにおいて数多くのレストランが閉店してしまったが、生き残ったところは競争が少なくなり需要が高まる。その分、値段を上げることができるので、インフレを誘発するだろう。借金のあるレストランは、返済のために在庫の安売りをするので、いったんはデフレ気味になるかもしれないが、いずれは需要が増加し価格上昇のインフレに転ずるはずだ。

結局会社も政府も同じで、無限に債務を増やすことなどファンタジーの世界でもない限り不可能だということだ。永遠に紙幣を印刷し続けることができる世界などこの世にないのだから。