不育症はどのような治療が行われるのか

不育症は、検査で明らかになったリスク因子に合わせて治療を行います。

「たとえば血液凝固系の異常があって、胎児や胎盤への血流が滞りやすくなることが流産の原因となるケースがあります。そうした場合は、痛み止めとしても使われる抗凝固薬であるアスピリンを低容量内服することで、血液をサラサラにし、流産を予防します。アスピリンを飲み始めるタイミングは、医師によっても見解がわかれますが、着床期前後に飲み始めるのが一般的です。妊娠中もしばらく継続して内服を続け、産科医師の判断で終了します」

糖尿病や甲状腺機能異常などの内分泌異常がある場合も、原因となる病気の治療を行い、症状をコントロールすることで流産を防ぐことができます。

子宮形態異常がある場合は、手術を行うか、経過観察をしながら妊娠をめざすかを検討します。手術を行う場合も、体への負担の少ない内視鏡手術で行うことが増えています。

また、夫婦のどちらかに染色体の一部が入れ替わっている「転座」がある場合も、流産の確率が高くなることがわかっています。この場合は、受精卵の着床前診断によって染色体の異常がないものを戻す方法があります。

不育症と診断されても約8割は出産できる

不育症と診断されても、適切な治療を行うことで約8割の方が赤ちゃんを出産するに至っているというデータがあります。

「流産の経験があると、また今回も悲しい結果になるかもしれないと、どうしても不安が強くなってしまいますね。でも、妊娠中のストレスはできるだけ減らしたいものです。安心して日々を過ごすことは、不育症への治療としても重視されています。『テンダーラビングケア』といって、医療者が患者さんの心に寄り添い、いたわるという精神的ケアを行うことで、生児獲得率が上がることが報告されているのです。治療をしているという実感を持つこともテンダーラビングケアのひとつで、リスク因子としては不育症の絶対的な適用となる基準に達していなくても、それが原因である可能性をわずかでも考慮して治療を行う、というケースもあるようです」

流産を恐れすぎず、心穏やかに過ごすことも不育症の対策として有効といえそうです。不安を抱え込まず、医師やパートナーに吐き出すことも大事。

「検査で原因がわかって治療を受けている方だけでなく、流産回数が2回に満たず診断を受けてない方、検査をしても原因がわからない方も、次回の妊娠時にはテンダーラビングケアによって不安を取り除くことが重要です」

構成=浦上藍子

月花 瑶子(げっか・ようこ)
日本産科婦人科学会産婦人科専門医

東京・新宿にある不妊治療専門クリニック杉山産婦人科に勤務。 産婦人科領域で事業展開するヘルスアンドライツのメディカルアドバイザーを務める。 共著書に『やさしく正しい 妊活大事典』(プレジデント社)、 監修メディアに「性をただしく知るメディア Coyoli」がある。